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「あくつ」 つぶやきは、そらにとけるしえんのように、きえた。 朝、なんでか早く目が覚めて。 いつもよりも体の調子は良くて。 いつもよりも気分が良くて。 だから。 朝早くから、新品の洋服を着込んで、始発電車にのった。 なんかもう、気持ちが良くて。 会いたいなぁ、と思った。 だから。 駅から走って。 走って。 きみのそばへと。 走って。 「何、なんで」 思考が今にも止まりそうで怖かった。 ぷっつりと。 糸がきれるみたいに。 なにもかも止まってしまいそうで怖かった。 たどりついた家は、まるで廃屋。 庭の草は荒れ放題、表札はもうなくて。 壊れた門。 壊れた家。 人の気配なんかなかった。 それはたしかに亜久津の家のはずなのに。 「……あくつ……?」 そこで目が覚めて。 泣いている自分に気付いて。 馬鹿みたいだってすこし笑って。 馬鹿だ、ばかだと自分を罵ったけれど。 涙が溢れてとまらなかった。 ゆめだ。 ゆめだ。 だいじょうぶ。 ゆめだから。 震える手で携帯をつかんで、亜久津の携帯にかけた。 そして聞こえた声に、ひどく安堵感を覚えて、俺は泣きじゃくりながら亜久津が好きだと言った。 -- なんつーか……うーん…。
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