華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年07月23日(火) 怒りと決別の遊戯。 『嘘・・・』 |
<前号より続く> 月曜日の夜になった。 俺はその夜の情事に心を馳せ、深夜にも関わらず部屋の大掃除を敢行していた。 そんな中で、軽やかな電子音で電話が鳴る。 美砂からだ。 「今ね、仕事が終って直行しています。東名阪道から名古屋インターを過ぎたところよ」 「じゃ、そんなに時間掛からないかな」 「だから・・・もうちょっと待っててね」 「気を付けておいでよ」 当時としては珍しい携帯電話から我が家に電話してくる。 その携帯を駆使して仕事に邁進し、遊びに没頭する。 平成初期に流行った、新しい女の象徴・・・an-non族的なライフスタイルだ。 それから20分程してから再び電話。 「高速を降りて、言われた通り国道を走ってるよ・・・どうすればいい?」 「そのまま道なりに走ってくれればいいよ」 「このまま?」 「そう、それで10分ほど走ると・・・消防署と歩道橋が見えるから・・・」 「見えてから、どうするの?」 「そこから2つ目の交差点を左に曲がって、団地の脇に車を停めてから電話して」 「分かった、その時にまた電話するね」 程なく、三たび電話が鳴る。 「ここで良いかな?着いたよ」 携帯電話というのは、便利な代物だとこの時に思った。 部屋からその団地脇を見遣ると、一台の車が停まっている。 濃緑のアウディだ。 俺は部屋を出て、美砂を迎えに向かう。 街灯の明かりに照らされた車内には、女性の人影だ。 間違いない、美砂だ。 俺が近づくのを分かったのか、パワーウィンドを下す。 「初めまして、平良です」 俺は努めて笑顔で挨拶をした。 しかし美砂は、俺の理解をはるかに超えた一言を浴びせた。 「嘘・・・」 美砂はそううめくように言った後、ハンドルに伏してしまった。 「どうしたの?体調でも悪いの?」 「・・・・・・」僅かに首を横に振る。 「仕事で何かあったのか?」 「・・・・・・」今度は何も返答がない。 美砂の態度に戸惑っている俺は中身のない話を繋げるのが精一杯だった。 「独りにして・・・お願い」 会話も途切れてきた頃、美砂はそう言いウィンドーを閉めた。 俺も一度部屋に引き上げた。 あまりに不可解な美砂の態度に、俺は何か不手際があったか・・・と不安になった。 人は時に、何の気もなく起こす行動で他人の心を傷付ける事がある。 俺が部屋に引き上げて20分ほど経った。 落ち着かないまま、「きょうの出来事」を観ている。 一方、美砂からも何の行動もない。 俺は部屋のドアを開け、団地脇を見遣った。 美砂を乗せるアウディは、まだ街灯の下に停まっていた。 正直、もう帰ったのかと思っていたが・・・一体どうしたのだろう。 俺は再び美砂を迎えに行く。 美砂はハンドルから顔を上げていた様子だが、俺に気付いてまた顔を伏せた。 ウィンドウをノックすると、モーター音をさせつつ降ろす。 「どう?まだ何か迷っている?」 「・・・・・・」美砂はまたしても黙して答えない。 「時間、どんどん遅くなるよ」 「・・・・・・」 「俺、もう少し部屋で待ってるわ」 引き上げるしか、俺もなす術がない。 それから30分。 まだ美砂は居るのだろうか? ドアを開けて覗くと、まだ同じ場所に停まっている。 いい加減、夜もふけてきた。 互いに次の日には仕事がある。 俺は半ば追い返すつもりで三たび美砂のもとへ向かう。 美砂はやはりハンドルに伏していた。 「どうするの?時間も遅くなるよ」 「・・・・・・」相変わらずハンドルに伏したままの美砂。返事もない。 「そんなに嫌なら、機会を改めてもいいよ」 「・・・平良、部屋は何号室?」 「え、201号室だけど」 「・・・後ろの新しいアパートでしょ?」 「そうだけど・・・」 「行く気持ちになったら、電話するから。一つお願いがあるの・・・」 「お願い?何?」 「私が行く時には、部屋の明かりを全て消して欲しい」 「全部消すの?」 「真っ暗にして欲しい。いい?」 「・・・分かった、でも・・・」 美砂はそう言うと俺の問いかけを無視してウィンドウを閉じてしまった。 俺はイライラしつつも深夜のバラエティーを観て時間を潰すしかなかった。 お笑い芸人達の賑やかなパフォーマンスにも、笑えない。 それからまた30分ほどして、電話が鳴った。 「今から部屋に行くから、部屋の明かりを全部消して」 俺は言い付け通り、部屋の明かりを全て消して回った。 天井の豆電球に至るまで。 カーテンも閉め、外からの明かりも遮った。 間もなくドアベルが鳴る。 中からカギを開けると、ドアが開く。 そこには、思ったよりも小柄な美砂が立っていた。 「入っていい?」 「ああ、どうぞ」 真っ暗闇の部屋、美砂の手を牽いて部屋に案内する。 今まで何人も客を呼んだが、こんな対応は前代未聞だ。 「ね、長い時間、何を車の中で迷ってたの?」 「今は言えない・・・」 「でさ、いつも真っ暗闇にするの?」 「・・・そういう訳じゃないけど」 「俺、何人かの女性に会ってきたけど、こんな人初めてだよ・・・」 「そう?じゃ貴重な経験じゃない」 それ以外の会話の節々にも 『私がわざわざ出向いてやった』という意図を感じる。 それにしても、今夜の部屋は本当に静かだ。 俺と美砂の会話以外には、エアコンの室外機の音しかしない。 国道の方面からも、まるで通行車両の音が聞こえない。 明かりだけでなく、音まで遮っている様だ。 もう午前1時前だ。 今夜の彼女の目的は分かっている。 「シャワー、浴びようよ」 「いいけど、明かりは点けないで」 <以下次号> |
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