華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
MAIL  PROFILE & GUEST BOOK  


 本文が読みづらい場合、
 Windowを最大にして
 お楽しみください。

 +お知らせ+
 表紙にミニ伝言版開設!ご覧下さい。




-past- +elegy INDEX+-will-
2002年07月30日(火)

あの遊戯の、その後。 後編


<前号より続く>




マヤの耳障りの悪い話を聞き流しつつ、美砂の言動を思い返してみた。
今の複雑な思いを紐解くきっかけにもなる。


営業所ではトップの成績だという『嘘』。
10歳以上の『年齢詐称』。

俺を引き合いに出して、全部『消させた』部屋の電気。
『暗闇』でこそ表せた、美砂の淫らな女の部分。

ルイヴィトンのモノグラムライン、
当時最先端の携帯電話・・・
同性からの羨望の眼差しを痛いほど受ける『ファッション』アイテム。

突き放す時に泣いて何度も言った台詞。「何故私を抱いたのよ・・・」
「もう本当に帰るからね」と、いかにも止めて欲しそうだった『素振り』。


『冷め切った』夫婦関係の危うさも省みず、他人の見合いの面倒を見る。
そこで仲人だってこなす。

また営業所でも『うわべだけの付き合い』を続ける仕事仲間。
前からいる『不倫関係』の彼にも突き通す、一連の嘘。



誰に対しても、またどんな場面でも『見栄』と『虚勢』を張る女だ。

そんな見栄や虚勢は、孤高な彼女を包み込む、脆い鎧だった。



旦那とは、美砂の言動にどういう態度を取る男なのだろうか。

旦那は彼女の行動に、何も感知しない様子だ。
例え夫婦関係を逸脱した行為でさえも。


妻は寂しさを紛らわせるために、他の男との逢瀬を心待ちにする。


収入の格差が、そんなに引け目を感じるのか?
家庭不和になるまでの、大きな問題なのだろうか?

それでも旦那か?
親より長い時間を共に過ごすと誓った、人生のパートナーなのか?


美砂の稼ぎ出す旦那顔負けの高収入は、
大きく時間を裂いて没頭する仕事の代償であろう。

本業の保険外交員に、お見合いコーディネーター、さらにバイトのテレコミ。

自分の努力で収入の上積みもある、歩合制の仕事ばかり。
働いて結果を出し続けていないと自分の存在が不安なのだ。

給料の明細書と預金通帳の金額が彼女の努力を誉め、孤独を癒す。
そして娘や家庭に還元していく。



本業ではたまに帰宅も夜遅くなると言っていた。

先日の美砂の言葉・・・「週3回は会おうね」・・・を思い返す。

それだけ彼に会って仕事と孤独に疲れた心と身体を癒すから。
その役割は本来、旦那のものだろう。

結婚したとはいえ、生まれた場所も育った環境も違うのだから、
そう簡単に全ては分かり合えないことは分かるのだが。


家庭では・・・自分に関心の無い旦那に、世話の掛かる娘。
『妻』であり『母』である家庭には、心休まる場所は無い。

でも彼にさえも嘘を吐き、見栄を張って本当の自分を表に出さない美砂。


自分の本音を出せない人間関係ほど窮屈で辛いものはない。


男に甘える女の芝居は出来ても、
きっと本当に甘えることが出来なかったのだ。


家庭も仕事も、遊びでさえも力一杯やらないと、
それより巨大な寂しさ、空しさを忘れる事が出来ない。

きっと働く女性に共通する虚空感ではないだろうか。


男から見れば、仕事も遊びも一流の『やり手』の女。
でもこれだけは間違いない。


本当の美砂は孤独で寂しい『女』だ。


振る舞い上手でも、甘え下手な美砂の苦悩。
一人っ子で上手な付き合い方も甘え方を知らない、この俺の人生経験と重なり合う。


俺と美砂は、実はどこか似た物同士だったのかも知れない。


・・・・・・



 「ちょっと、聞いてるの?ねえねえ?」

焦り気味のマヤが声を荒げる。


「あ、ごめんごめん」
 「寝てたの?」

「違うよ、寝てないよ」
 「わかったー、どうせ美砂さんの事、思い出してたんでしょ」

「・・・・ああ、思えばいい女だったな〜ってね」
 「その言葉、美砂さんに伝えてあげようか?」

「いいよいいよ、向こうは俺のこと、もう思い出したくないだろうし」
 「でもね、ずっと言ってたよ・・・あの男、あの男って」


美砂に相当恨まれているのだろう。
あんな仕打ちをしたのだから、当然だが。


 「女ってね、そういう言い方してる時のほうが、
               本当は心から気になってるんだよね・・・」


意外なマヤの言葉だった。
俺は何か見えなかったものに気付かされ、息を呑んだ。

「言葉」は必ずしも、本当の心を表している訳ではない。




マヤも俺の事が気に入ってくれたのか、その後もテレコミで何度も話をした。

しかしマヤとは逢う事はなかった。
どうしても俺とマヤの間に存在する美砂の影に、
俺も強く求める事が出来なかったのだ。


俺との事で、美砂から心無い言葉を聞いているだろう。

例えどんな真意があろうとも、口を突いて出るのは悪口なのだ。
俺だって気分の良いものではない。





『釣った魚に餌をやらない』という慣用句があるが、
『釣った魚に餌もやらず、見向きもしない』男が増加している。

それと自由とは違うだろう。
また放任主義でもなかろう。


ハンティングは狩りをする課程を楽しむのであって、
狩りをし終えた獲物に関心を失う事もある。

でも相手は自分の人生を共に過ごす女性であれば、
その後の生活や人生も、最期まで見守る義務があろう。


心の繋がりのない男と女には、人智を超える信頼も奇跡もない。


相手は女性。
生身の人間だ。

自分の意志を持ち、自分の手足で行動できるのだ。
決して金銭やSexだけでは、繋ぎ止められないのだ。

当たり前の事実に、また余りの甘えに気付いていない男のなんと多い事か。





そのテレコミ店は、不況からかしばらくして店を閉めた。
マヤ、そして美砂ともそれっきりになる。


それにしてもテレコミは脆い関係である。
存分に遊びつつも、どこかで自嘲する俺。



  甘え下手な女は疲れる。
  特に不倫などの「遊びだと割り切った」関係になるとな。

  週3回だ?
  ふざけるなよ。
 
  もし旦那にばれたら、俺は責任持てないぜ。



甘え下手よりも、もっと性質の悪い「遊び下手な男」が、
そう自分自身に気付かないうちに言い聞かせていたようだった。



そういえば、マヤに言い忘れてた。
かねてからの疑問だった、美砂と俺に肉体関係があったかどうかを。







↑エンピツ投票ボタンです。宜しくお願いします。



☆ 毎度「華のエレヂィ。」を読んで戴いて、ありがとうございます。
  マヤの言葉は、美砂のうわべだけの鎧を引き剥がす鍵になりました。

  あなたは、大好きな人を「信頼」していますか?
  そして「信頼」されていますか?

  俺の場合は・・・大好きな人が仮にいても、「信頼」に値する人間という自信がありません。
  だから優しくなれるのでしょうか。
  だから横柄な振る舞いができないのでしょうか。
  だから・・・本当の姿を見せることが出来ないのでしょうか。


  お気に召したら投票&My登録を宜しくお願いします。


My追加



Directed by TAIRA
©2002 TAIRA
All Rights Reserved.

ここに登場する女性・出来事は実話です。
Web上で公開するために脚色・演出してあります。

このサイトの全てにおける無断複製・転写を一切禁止します。
また、このサイトに掲載されている文章の全てにおける著作権は放棄しておりません。
商業誌、商用サイト等への転載および引用につきましては、
「華のエレヂィ。」メールフォームより
お問い合わせ下さい。

+ very special thanks +
Design by shie*DeliEro
thanks for Photo→Cinnamon







エンピツ