華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年07月29日(月) あの遊戯の、その後。 前編 |
<前号より続く> マヤのあまりに意外な言葉に、俺は一瞬頭が真っ白になった。 俺は風俗遊びやテレコミ遊びは、誰にも一切秘密にしてあった。 からかっているのか? 本気か? ただ過去に聞いた事のない声だし、その年齢での知り合いもいない。 「な、何故俺を知ってるの?」 「何故って・・・そんなに聞きたい?」 「だって、おかしいよ。初めて話したのに」 「でもね、うふふっ、知ってるの」 主婦らしい柔らかい声と口調で、どうにも意地の悪い事を言う。 俺は話の方向を変えて、マヤの真意を探ってみる作戦に出た。 マヤは兼業主婦で、仕事も持っていた。 彼女の仕事は保険外交員。 それも業界第2位の大手保険会社。 住まいは三重県四日市市。 今年幼稚園に通う男の子がいる。 まさか・・・・? 「そう、そのまさか、かもね」 美砂だ。 ここまでマヤと共通するのは、奴しかいない。 美砂はマヤと同じ営業所の先輩にあたる。 子どもも同い年で同じ幼稚園に通う。 美砂が俺のことをマヤに話していたのだ。 「美砂さんが色々聞いたから、こういうの面白そうだなって思って・・・」 「・・・・・・そう、なんだ」 俺はそれ以外の言葉も声も出ない。 美砂はあの後、職場で部下のマヤに様々な事を喋ってくれたそうだ。 「あいつ新人の女の子なら飛びついてくるよ・・・って 言ってたけど、本当に来るとはね」 美砂は愉快そうに笑っていた。 俺は呆気に取られて、言葉も出ない。 「いろいろ言ってたよぉ」 「何を?」 こうなったら俺も開き直るしかない。 「声と外見のギャップが凄くて、見事に騙されたって」 「・・・・・・それで?」 「だから遊ぶ気も無くなって、お茶しただけで帰ってきたって」 「・・・あ、そう」 女という生き物は自分に都合の悪い事だけを切り取って、 他人にそれが全てのように喋る。 いかに標的が悪いかを抽出して、そして自分の落ち度を濾過して、だ。 何がお茶しただけで帰ってきた、だ。 あの夜の真実を全て暴露してやろうか。 「ね、本当の事を教えてよ」 「な、何?」 「美砂さんと寝たんでしょ?」 「・・・何でそんなこと聞くの?」 「だって有名よ、彼女。契約のためにだったら誰でも寝るって」 「・・・そうなんだ」 噂に聞く『肉体契約』か。 そいつは見上げた美砂の営業努力だ。 女の世界というは結束が固そうに見えて、何時裏切るのか本当に分からない。 俺が女という生き物の中で、最も忌み嫌う部分だ。 契約のためなら彼女は寝る、と言うマヤだが・・・ もしかして俺は保険契約の標的にされかかったのだろうか? 「何故私を抱いたのよぉ!」 まだ生々しい美砂の絶叫が脳裏をかすめる。 そういう意味だったのか? いや、違うはず・・・しかし本音はどうだったのだろう・・・ 複雑に絡み合う美砂への思い。 「知ってる?美砂さん、ああ見えて18も年下の彼が居るんだよ」 「彼?・・・ああ」 「一度旦那にばれたって言ってたけど、何時の間にか復活しているし」 「そんなことあるんだ・・・信じられないなぁ」 「優しい旦那と彼が居て、そんな契約の噂でしょ。そりゃいい話はないわよ」 そういえば彼がいることは言っていたが、確か24歳だったはす。 彼女は32歳といっていた。 18歳も年下なら、彼は・・・中学生か? 「そんな訳無いじゃない(笑)、その彼24歳だっていってたかな」 「・・・美砂さんって、いくつなの?」 「私よりも8つ年上だから・・・42、3くらいじゃないかな?」 「そ、そうなんだ・・・」 「彼女、歳より若く見られるから・・・騙されたんじゃない?」 歳よりも若く見られるとはいえ、10歳もサバを読んでいた。 本当は肌の衰えや皺を隠すために、部屋の電気を消せと言ったのか? 美砂の印象が微妙に変化してきた。 「騙されてた、かも(笑)。よく分かったね」 「だって、彼にも本当の事を話してないみたいだもの・・・歳も誤魔化しているし」 「・・・有名なの?美砂さんは」 「内輪ではいい話しないね・・・女のやっかみもあるけど」 私は嫌いじゃないけどね・・・と言い訳がましい枕詞をつけて、 マヤは美砂の話を聞きもしないところまで、どこか毒のある言い方で話す。 美砂は保険業のほかにお見合いのセッティング業も行っており、 そこで多額の謝礼を獲得している。 実質はかなりの高収入なのだそうだ。 旦那はやり手の美砂に圧されて、彼女の行動に何も言えないでいる。 「美砂さんって、売り上げトップなんだって?そう言ってたよ」 「へ?彼女?トップなんて位置じゃないよ・・・中の上くらいじゃない?」 「そうなんだ、それも騙されたかな」 「でも身体で取ってくるからぁ・・・本気出せば結構上位なのかも(笑)」 「本気ねぇ(笑)本当の話なの?」 「あくまでそういう噂なんだけどね、無い事もあるように聞こえるから怖いね」 「女の世界は怖いね」 「ノルマに届かない時は身体使ってでも達成しな!って言われちゃうし」 「そんな事言われるんだ!」 「私はしないけどね・・・でもうちもセクハラ営業所だよね(笑)」 その後も冗談にしてはきついマヤの言葉が続く。 上司である美砂の、営業所内での微妙な立場を表しているようだ。 「でさ、教えてよ。美砂さんと・・・したんでしょ?」 「興味ある?」 「だってぇ、そういう話って盛り上がるじゃない」 「どうだったかなぁ・・・」 女の集団はいい話よりも、断然悪口で盛り上がる。 俺を悪く言いふらす美砂。 陰で美砂を悪く言いふらすマヤと仕事仲間。 そして美砂の悪口を聞く俺。 奇妙なトライアングルである。 関わりたくないものだ。 <以下次号> |
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