華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2003年01月16日(木) 年下の男の子。 〜対峙〜 |
<前号より続く> 受話器を介していても、気配で分かった。 真知子の部屋に、泰之が入ってきたのだ。 ヤバイ・・・俺は一瞬の激しい動揺を抑えようと息を飲んだ。 「ヤス君・・・見て・・・こんなにHになってる私を見た事がある?」 受話器の向こうで真知子は信じられない台詞を口にした。 さすがの俺も自分の耳を疑った。 「平良君、大丈夫だよ・・・ヤスが見てるけど・・・続けて」 「大丈夫って、正気か?」 「うん・・・ヤスが悪いんだからね、私を欲求不満にしちゃうんだから」 「・・・」 「平良君、今ね、指を二本出し入れしているよ・・・ヤスも見てる」 「・・・見られると、どう?」 「すごく感じるよ・・・だってヤスはこんな事してくれないんだもん」 「・・・じゃ、そこに居るヤスを挑発してみせなよ」 「もうやってる・・・腿を開いて、見せ付けちゃってるから」 口では煽っているものの、俺はにわかに信じられない状況にいた。 真知子は泰之の見ている前でテレフォンSexをしているというのだ。 彼女の利かせた機転か、それとも完全な自棄か。 俺の戸惑いとは無関係に、真知子は受話器を手に持って喘いでいる。 「ヤス、女はね・・・時には無性に理不尽なSexをしたくなるのよ・・・」 その悩ましくも自信に満ちた口調は、もはや俺の知る真知子ではない。 妖艶極まりない、悪女のさえずり。 「キャッ・・・」 その直後、真知子の短い悲鳴を共に受話器を叩き切られた。 泰之が暴走したのか? 俺は真知子の家へ、初めて自ら電話した。 彼女の家の番号は知っていたが、自分から掛ける事は控えていたのだが。 しかし何度呼び出し音を鳴らしても電話には出なかった。 それから一時間ほど経って、電話が鳴る。 真知子か? 俺は受話器に飛びついて電話を取った。 「もしもし・・・真知子?」 「もしもし・・・平良、さん・・・ですね」 予想に反して、若い男の声だ。 か細い感じの男の声は、緊張からか震えていた様だ。 「もう金輪際、真知子とは電話で話さないで下さい」 「・・・あなたは、誰ですか?」 「・・・真知子の、男です」 泰之だ。 泰之が俺の所に電話をかけてきたのだ。 「俺は真知子の話を聞いていたんだよ。だから彼女を責めないでくれ」 「もう、真知子とは一切関わらないで下さい・・・」 「お前にそんな事言われる筋合いは無い。居るんだろ?真知子を出して」 「だから・・・もう電話するなって言ってるんだよ・・・」 「お前に用は無い。真知子を今すぐ電話に出せ!」 「・・・だから、もう・・・」 「おい、分からないのか?今すぐ真知子を出・・・」 真知子の身の危険を案じた俺は、まず彼女の無事を確認したかった。 しかし、無情にも電話は泰之側から切られた。 その後、俺は真知子の自宅へ何度も電話したが、結局繋がらなかった。 次の日。 真知子から留守番電話が入っていた。 「真知子です・・・昨日はごめんなさい。 もう、電話しません。彼と約束したから・・・ありがとう」 小さな声で、短い伝言を残してくれた。 公衆電話からなのだろう。 ビーッと電子音が最初に入っていた。 しかし、その宣言から一週間経たずに真知子から電話が鳴った。 「平良君・・・どうしよう、どうしよう・・・」 「真知子か?無事か・・・大丈夫だったか?何があった?」 「ヤスが・・・ヤスが・・・ヤスが・・・」 ガタガタと震える声。 寒さが理由ではない。 話を聞き出した俺は愕然とした。 真知子の実家の台所で、泰之が彼女の目の前で、 自らの左手首を切ったという。 先ほど救急車を呼んで病院へ搬送し、今は処置も済んで落ち着いたという。 「そうか・・・大変だったね」 「・・・私ね、先日ヤスのご両親に会ったの・・・」 泰之の両親が名古屋に来たついでに、彼が真知子を紹介したという。 真知子は「君に合わせたい人がいるから」と泰之に呼び出されて、 栄にあるホテルのレストランに向かった。 そこに居たのは泰之と品の良さそうな初老の夫婦。 泰之の両親だった。 彼女を見遣った瞬間、彼の両親の表情は曇った。 そして嬉々とする泰之から説明を受け、その表情はさらに曇った。 泰之の初めての恋人は、離婚したばかりのバツイチ子持ちの三十路女。 その事実は彼の両親を怒らせるのに充分な理由だった。 怒り心頭の両親は他の客がいる前ながら泰之を激しく叱責する。 そして真知子には手切れ金を渡すから息子とすぐ別れろ、と言った。 その言葉に、泰之がキレたのだ。 激昂した泰之は自分の両親を怒鳴りあげ、椅子を蹴倒した。 周囲の客など構わずに、調味料などを手当たり次第に投げつけた。 父親のスーツや母親のコートが醤油やソースで汚れる。 頭に小瓶が当たり、血を滴らせた父親が泰之を組み伏せて押さえつけ、 鬼の表情で何度も横っ面を引っ叩く。 泰之も負けじと父親の胸倉を掴み、後ろへと突き倒した。 ホテルの従業員らが一斉に取り押さえる。 それでも収まらない泰之が力任せに従業員らを振り解き、 なお父親に突進しようとした。 真知子と母親は呆然とその様子をただ眺めていた。 怒りの収まらない泰之は真知子の腕を掴み、レストランを飛び出した。 自分は出戻り。相手は名家の一人息子。 真知子も自分のような女では釣り合わない事くらい、分かっていたのだ。 泰之に機会がある度にこう話し掛けた。 ・・・もっと自分に相応しい女性を探すべきだ、もう別れよう、と。 真知子だって苦しい決断だった。 自分の心の支えを自ら切り離そうとする事など簡単に出来ない。 身を切られる程辛い決断を、自分自身で下した。 それは『相手のために死ねる』、究極の愛でもあった。 重い話し合いを嫌がる彼の機嫌を見ながら、我慢強く続けていたのだ。 騒動から数日経ったその日も、真知子は泰之に語りかけた。 「そうしたらね・・・突然自分で包丁を持ち出して・・・」 真知子に突きつけたという。 「君と娘、そしてあの男・・・あなたを殺して、俺も死ぬ・・・って」 真知子は粗暴な手段でしか意志を示せない彼を初めて厳しく叱った。 泰之はその場で泣き崩れ、そのまま包丁を左手首に圧し当て、引いた。 絶叫しながら数回自らを傷つけて、服やパンツが血染めになる。 真知子も必死になってしがみ付き阻止しようとするも男の力には敵わない。 泰之は静脈血が止め処なく流れ出す中で、失神した。 「とりあえず、大丈夫なんでしょ?」 「傷が深くて筋が傷付いているって、それに雑菌が入ってるかも・・・」 「まあ、命が助かったのならそれだけでも良かったよ」 「平良君・・・どうすればいいの?私・・・もう嫌だ・・・疲れちゃったよ」 「・・・・・・」 真知子から初めて聞く泣き言。 俺にはどうする事も出来ない。 幼稚な泰之は自分の気に入らない事は、力づくでしか発散できない。 今までは他人に向けられていた刃が、自分側に向いてしまった。 心の刃には、二種類ある。 一つは外に向くもの。 もう一つは内に向くもの。 外に向くものは、他人を傷つける。 内に向くものは、自分自身を傷つける。 結局は他人に迷惑を掛けるのか、自分が傷付いて他人に迷惑を掛けるのか。 表面上はその違いだけだ。 しかし内面に向く刃は、自分自身の存在すら否定し、生命さえ消そうとする。 標的は自分自身だから抵抗も反撃も無いし、誰にも遠慮なく傷つけられるのだ。 ある種、最も卑劣な行為でもある。 「俺からは・・・泰之と別れろとしか言えない・・・同じ事しか言えない」 真知子からは返事が無かった。 返事する意思が無いのか、返事できる勇気が無いのか・・・ 俺なりには分かっていたつもりだ。 <以下次号> |
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