華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2003年01月20日(月)

年下の男の子。 〜決意〜



<前号より続く>





年が明けたあとも、数週間おき位の感覚で何度か電話で真知子と話をした。

会ってからの話題は近況報告が主で、今までを考えると穏やかな内容だった。
彼女も努めて暗い話題を出さなかったのかもしれない。

当然、あれだけ互いが盛り上がったテレフォンSexもしていない。
生々しすぎて照れてしまうからだった。

それに、そんな事をしないでも通じ合う関係だと思っていた。



3月下旬に電話で話した時。


「元気そうだね・・・何かうれしい事でもあったの?」
 「そんな、何でもないけど、ね」

「さては何か隠しているな?」
 「隠してないって・・・何にもありません(笑)」


そんな会話の中で、真知子が言った。


 「今度、手紙を書いていい?」
「いいよ、別にそんな断らなくても(笑)」

 「そこにね・・・全てを書くよ」


考えてみれば、それが真知子からの最後の電話だった。



その数日後。
つまり今日。

これが真知子から届いた三通目の手紙となった。

中身など読まなくても、予想できた。


しかし厚めの手紙に何をしたためてきたのか、確かめない訳にはいかない。

俺はペーパーナイフで慎重に封を開き、中身を取り出した。


中身は見覚えのある丁寧な文字の手紙。
そして見覚えのある写真だった。

その写真は、俺の写真。
2年程前の大学際の頃に撮った、バイクに跨ってポーズを決めた写真。
迷いながら真知子に送った、あの写真を送り返してきたのだ。


俺は便箋3枚にまたがる手紙を読んだ。


『 前略  平 良 様 


  色々とお世話になった平良君に報告したい事があります。

  この度、私は泰之と結婚する事に致しました。

  平良君には私達の事で本当に心配をかけました。
  きっと今でも反対される事でしょうね。
  私も何度も泰之と真剣に将来の事を話し合いを重ねて、
  今回の結論に至りました。

  頼りないし、まだ大人になりきれていない泰之だけど、
  大学を中退して、私と娘のために働く決意をしてくれました。

  実は彼の実家とはまだ話し合いが出来ていません。
  彼も実家を捨て私と暮らす、もう広島には帰らないと言ってくれます。

  彼の人生計画を大きく狂わせた事を、私は今でもすごく不安だし、
  彼のご両親には申し訳ない気持ちでいます。

  でも彼は私を妻に、みらいを娘にしてくれる決意をしてくれました。
  そして産んであげる事の出来なかった赤ちゃんに報いるためにも
  絶対に幸せになろうって。

  今、本当に恐いけど・・・すごく幸せです。
  いや、幸せ過ぎて恐い、というべきかな。


  でも本当の事を言うと、平良君の事も大好きです。

  どんなに苦しんでいても、平良君は決して私から逃げなかった。
  本当に嬉しかったよ。
  泰之と違って、本当に頼れる素敵な人だと思います。

  泰之がいなければ、きっと私も平良君に真剣になっていたと思う。
  でも彼が今後の事を決意してくれたので、私も決意しました。

  もう平良君とは会わないし、電話もしません。

  本当は会った時や電話でも何度も伝えようと思ったけど、
  どうしてもうまく言えませんでした。
  なので手紙で気持ちを伝えようと思いました。

  私が持っているべきものでないので、戴いた写真もお返しします。

  辛い事、悲しい事・・・思い起こせば、いっぱい経験しました。
  でもこれからは泰之と私、みらいの三人での新しい生活が始まります。

  今度こそ幸せで暖かい家庭を築きたいと思います。
  
  平良君も身体に気を付けて、いつか私に電話で話してくれた
  夢を叶える為に頑張ってね。
  陰ながら応援しています。

  尚、お返事は結構です。
  この手紙も処分してください。

  こんなに優しくて頼れる平良君なら、きっと素敵な彼女ができるよ。

  今まで本当にありがとう。
  お元気で。  


   草 々
                       真 知 子   』










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読み終わった後、俺は小さな安堵と大きな喪失感を感じていた。


両親共に教師という環境で育った一人っ子の泰之。

反抗、脱落、非行・・・そんな選択肢を持てなかった彼は、
偏差値や名声と見比べて進学した大学に馴染めなかった。
自分の生き方をそこに考え合わせることをしなかったのだろう。


 「それが何よりの強いストレスになっているみたいなの・・・」


いつか真知子は泰之について、そんな事を言っていた。


親の希望を優先して進学の材料にした、心優しき息子。

しかしその選択から強いられるストレスが彼を変えてしまう。

孤独な学生生活の中で知り合ったバツイチ子持ちの真知子に惚れ、
一見無軌道で破滅的な生き様を晒していた。

それも親の地位などの『しがらみ』から抜け出すための、
幼稚な男なりの必死の抵抗だったのだ。

真知子はそんな彼の真意を見抜き、辛さを理解していたからこそ、
どんなに苦しくとも彼の成長を信じ、模索を支え続けたのだろう。
そして尽くす事で、自分の支えとしても彼を必要としていた。

そんな彼女も一度は彼の人生のために・・・と自分から別れる決意をした。
苦しい生活を強いられていた彼女自身の、最大の支えを自ら突き放すのだ。

しかしそれは決して楽をしたいがための選択ではない。


 『相手のためなら死ねる事』

それが究極の愛というならば、彼女は逆の選択をしたことになろう。


 『相手と自分のために困難を覚悟して、万障を排して一緒に生き抜く事』

どちらが究極の愛なのだと聞かれたら、今の俺なら後者を答えるだろう。
どんなに辛くとも、生きているからこそ挽回できるのだから。


 『接吻する恋人の足元に広がる断崖絶壁は、関係の終焉を表す象徴』

ならばその崖から落ちるその瞬間まで抱き合う腕を信じ、愛を貫くだろう。

その愛が過ちでない事を互いが信じ抜くために。
そして残った思い出の数々が自分の人生の糧となるように。



   出逢いとは 偶然である
   始まりは 運命

   別れとは 必然である
   終わりも 運命

   始まったものは 必ず終わる
   重なり合う偶然と必然の繰り返しが人生を構築していく

   必ず終わるものならば
   終焉のその瞬間まで悔いを残さぬように
   全力で愛し続ければよい


   仏教が千年以上の時空を越えて伝える 精神
   一枚のカンバスに込められた 光と影の象徴

   愛に悩み 愛のあり方に苦しむ人々への 先人からの眩い伝言


   人間なんて千年経っても 機械文明に時代が変わっても
   愛に苦しむ事に関して 何も変わっちゃいないのだ

  

出逢いから『自分』という生き方を模索するきっかけを得た泰之。
それも、共に人生を歩む真知子というパートナーがいるのだ。


泰之よ・・・お前は幸せ者だ。



先日の絵葉書を手にとって、文面を読み直す。

 『 ドーナツおいしかったね、また食べに行こうね! まちこ 』

今はもう叶わないそのメッセージの裏には『接吻』。
クリムトの恋人・エミーリエを模した女性の表情が、真知子の面影と重なり合う。


娘と泰之とで幸せな生活を営んでいくのなら、それでいいのだ。



てっきりこの手紙は近況報告なのだ、と信じ込もうとしていた俺。
その甘い予想を大きく外した、決別の言葉と結婚への決意表明の手紙だった。

その悔しさは、俺に無意識に溜息をつかせる。

今までは、何だかんだ言っても向こうから俺のもとへ連絡があった。
簡単でいい、何か連絡があればいいのだ。
それで俺と真知子は繋がっていられる・・・
そう考えて、俺は電話が鳴る事を待っていた。


暦が進み、街中の桜が一斉に咲き、散る。
梅雨に入り、蒸し暑い中で雨が降り続く。
真夏の針を刺すような厳しい日差しが、街中を焼いていく。

真知子との出逢いから一年が経った。

そして、北風がつむじを巻いて枯葉を踊らせる。
雪がちらつき、人々が寒さに身を屈めて街を歩く。


しかしあの手紙以来、真知子からは一切の連絡はなかった。
あの決意は本物だった。


彼女の依頼通り、手紙を処分しようかと思っていたが未だ出来ていない。
彼女と娘の写真、そしてあの絵葉書と一緒に封筒に入れ、今も保管してある。

断っておくが、決して真知子への未練ではない。

人の心がこもった手紙や写真を、今でも捨てられないでいるだけだ。



※ 毎度のご訪問&ご高覧、ありがとうございます。
  今回は12話構成で、大変長いエレヂィになってしまいました。

  それだけ関わりの深かった女性だからこそ、教えられた事がありました。

  今でも平針駅辺りに行くと、当時の思い出を噛み締めています。

  真知子との出逢いからすでに7〜8年が経ちます。
  小学生高学年になるだろう娘と、三十路に手が届く年齢の泰之と共に、
  幸せに暮らしていると良いのですが・・・

  投票&My登録もどうぞよろしくお願いします。

  次回の「華のエレヂィ。」もどうぞお楽しみに。


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