華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2003年03月17日(月) 続・18歳。 〜不機嫌の真相〜 |
<前号より続く> 紛れも無くユキエの声だった。 風呂場でエコーの掛った彼女の声だった。 「・・・何かあったのか?」 「・・・」 実はユキエは客に八つ当たりしている事を自覚していたようだ。 たまたま相手が俺だった、と言う事らしい。 熱めの湯船の中で俯いたまま、押し黙る。 「いいよ、話せよ」 「・・・あのね、さっきの客がウザかったの」 俺の直前に就いた客は、こういう世界の遊びの意義を履き違えている中年男だった。 彼女を「売女」呼ばわりして詰り、自分の金で飯が食えることを何かと誇張した。 必死で耐えた彼女も、力ずくでベッドに押し倒され、絡みつく。 「でさ、無理やり生で本番しようとしてきたから・・・」 俺が悦ばせてやる、と圧し掛かる中年男のみぞおちに下から踵で一撃を加えた。 男がひるんだ隙に、事務所に救援の電話を入れたのだという。 「その男、どうなったの?」 「・・・知らない。でも無事には帰れないよ、きっと」 すぐさま救援に駆けつけたのは彼女の事務所の社長だったという。 ユキエ専門の運転手としてホテルの駐車場で待機していた。 「・・・あの人、根っからのヤクザだからさ。血相変えて飛び掛って・・・」 社長が男に制裁を加えている間に、ユキエは服を持って脱出した。 服の中で着替えたものの、自分の気持ちを落ち着かせる間まではなく、 次の客だった俺の元へ駆けつけたのだ。 彼女の不機嫌さには、こんな経緯があった。 「あたしさ、元レディースだったから喧嘩には自信あるんだよね」 「へぇ、どんな感じだったの?」 「みぞおちの下に拳を入れるの・・・こうやってね」 俺の胸元に突き入れるように拳を突き出す。 しかしユキエの拳は、箸より重い物が持てないほど小さく、か細い。 これで男を殴ったら、この拳のほうが折れてしまうようだ。 柔らかすぎるほどの白い肌が印象的な腕。 タバコを圧し付けた後もない手の甲。 どうみても一度も人を殴った事も無い拳。 残念ながら、見え透いた嘘を見逃すほど、俺は気が利かない。 「で、事務所の社長とはどういう関係なの?」 「・・・付き合ってるよ・・・だからあの客、タダじゃ済まない」 「付き合ってる?」 「・・・うん、愛人」 「相手は結婚は?」 「・・・してるよ、両方とも」 「両方?」 「・・・他にオーナーとも、ね」 「それって・・・その二人は三角関係?」 「・・・なのかな。でも、互いは知らないよ」 何のためらいも無く、秘密を暴露した。 ユキエは元々オーナーである熟年の暴力団幹部と愛人関係にあったが、 それを知らない社長が彼女を口説いてきた。 オーナーとは違い、容姿端麗で羽振りの良い社長とも関係を結ぶまでには、 長い時間は掛らなかった。 「大丈夫なの?ばれたら恐ろしそう・・・」 「・・・わかんない・・・でも互いに関係あるから・・・きっと大丈夫」 力が拮抗する両者の間を、勝手気ままに泳ぐ若い女。 一番偉い者は、金や権力を持つ者ではないのだ。 「凄い人らと愛人関係なんだな」 「・・・まあね。愛人だから良いんだけど」 「二股の愛人かぁ・・・」 「良い立場だよ。他の女よりも手当ても多くくれるしさ・・・」 愛人の恩恵にあやかるユキエは、冷めた口調で呟きつづける。 「凄まじいなぁ・・・」 「いいんだって、どうせ本気の付き合いじゃないんだしさ」 「まあねぇ」 「もし本気ならさ・・・客と本番までやらせて平気な奴なんていないでしょ?」 この言葉だけは彼女の体温が込められていた気がする。 女にとって、身体の接触は男が考える以上に深い意味を持つ。 こういう仕事上、客とサービスとしての身体の接触があるのは致し方ない。 店の連中の肉体ではなく、そんな『仕事』に対するのいたわりの一言が欲しかった。 ユキエが求めていたものは、愛人としての地位ではなく、人の温もりのある愛。 愛人どもが本音でのいたわりの気持ちや温もりを持たないのを、 すでに見切っているのだ。 社長もオーナーも、確かに他の誰にもばれないように色々な施しをしてくる。 でも、自分への愛情は本気ではない。 ただ18歳の若い肉体を遠慮なく味わいたいだけだ、と。 その代償として、他の娘には無い高額な「手当て」とより厚い「保護」があるのだ。 対するルミはそれを知ってか知らずか、その不公平な扱いに憤っていた。 店の売り上げに貢献する普通の立場の娘。 愛人として身体と引き換えに庇護を受ける娘。 どちらの立場が強いのかは、すでに明白だった。 「もう出ようか?」 話が一段落したとき、俺は風呂から出るよう声を掛けた。 すでに随分な時間が経っていた。 ユキエは少し湯あたり気味だったが、心の中身を話してすっきりとして様子だ。 <次号に続く> ☆投票ボタンは最終話にあります。 |
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