華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2003年03月16日(日)

続・18歳。 〜ユキエ再び〜

  この物語は『18歳。』の続編になります。
  未読の方は、旧作を先に読まれることをお勧めします。

    『18歳。』



『たわわに実る水蜜桃』より続く>



一台の黒いミニバンが俺の車の脇に滑り込み、乱暴なブレーキングで停まる。
そこから降りてきた若い女は、俺の車の後ろから助手席側に回り込む。

女はいきなりドアを力強く開け、無言で俺の車に乗り込み、
強くドアを閉め、大きく息をついて無愛想に真っ直ぐ前を向く。


『期待しないで待ってる・・・』
前回の別れ際、俺はユキエの意地悪な台詞を覚えていた。


半年前のたおやかな黒髪のクールな美少女は、あの頃のままだった。

しかしあの黒髪はヘアマニキュアで明るい栗色になっていた。
そして軽くパーマを当てているらしく、緩やかなウェーブを描く。
チラリと覗く耳には、チェーンピアスが揺れている。

あの頃には無かったアクセサリーの類いが、時間の流れを感じさせた。


香水と煙草の悪臭や染み付いた男の体臭らと混ざり合ったようなきつい匂いが
俺の車内にいきなり充満する。
はっきり言って悪臭に近い。


実は当時の懐かしさを彼女と共に味わいたい気持ちだった。


しかし一日に何人も相手をする風俗嬢が、半年前の一度きりの客など覚えている
訳が無い。


俺は懐かしむ気持ちを振り切って車を出した。
球場裏のラブホテル街への、ほんの1分程のドライブ。


重苦しい雰囲気の中、俺は話を切り出す。


「仕事、大変だね」
 「・・・」

「俺ね、実はユキエちゃん初めてじゃないんだ」
 「・・・?」


無言だった彼女は驚いた風に振り向き、俺の横顔をじっと見つめる。


「判らない・・・よね?」
 「・・・(無言で頷く)」

「そりゃ覚えていないだろうね・・・半年以上前に一度相手してもらったんだ」
 「・・・じゃ入りたての頃、かな?」

「それくらいだったね。事務所はまだ2日目だって言ってたもんね」
 「・・・」



何かユキエが言いかけたようだが、車はもうホテルの駐車場に到着した。
サイドブレーキを引き、エンジンを落す。

車を降り、数十分前に出たばかりのホテルのエントランスを再び入る。
他のホテルにしようかとも思ったが、慣れた場所のほうが良いと判断した。

ユキエにとっては何ら関係ない話か。


エントランスの奥にある電光板を眺めると、308号室に空室の表示。
半年前、ユキエと過ごしたあの部屋が偶然空いていた。

運命めいた展開に、俺はその部屋のボタンを押す。
下からキー代わりのカードが出てきた。


俺はそれを引き抜き、ユキエを連れてエレベーターに向かう。


3階に着いたエレベーターから降りて、308号室に入った。

あの狭くて質素な部屋は、やはりあのままだった。


そういえば、半年前のユキエは店のシステムや自分の源氏名さえも覚えていない、
本当にまっさらの新人だった。

乱暴に触れると壊れそうな危うさと、愛に飢えた少女の無垢さ。
切ない記憶が脳裏に次々とよぎる。


彼女は大き目のバッグからコンビニの袋を取り出した。


 「あのさ、晩ご飯食べさせて」


そう言うとユキエは俺が返事する間もなくパンの袋を開け、ペットボトルの蓋を
捻っていた。
ピーナッツバターの小さなコッペパンと、オレンジジュース。

半ば呆れた俺の気持ちを知る由も無く、ユキエは黙々と質素な食事を始めた。


「食事の時間もない程忙しいの?」
 「・・・だって休み時間をくれないんだもん」


客が取った貴重な時間内で身勝手な真似をする。
あの頃と比べて、随分となめた事をするものだ。

しかし無垢で円らな瞳で見つめられると、なぜか強く言えない。


「そういえば、時間やシステムはもう覚えたかい?」
 「・・・」


気を取り直そうとユキエに話しかけるが、ユキエは食事に没頭してか答えない。
気まずい沈黙が308号室の狭い部屋を包み込む。


そんなユキエを見ると、随分と変わった部分がある。

髪の色だけでなく、きっちりと化粧をしていた。
アイラインもしっかり入れ、幼さを消すためか濃い目に仕上げている。

左右の耳たぶには、あの頃には無かったピアス。
両手首には何本ものブランドの違うブレスレット。


 「これね、客が押し付けてくるの」


俺の視線に気付いたのか、ユキエがぶっきらぼうな口調で答えた。


「凄いねぇ。お客さんに人気あるんだ」
 「・・・私のご機嫌取りだって、こんなの」


ユキエを口説き落とそうとプレゼント攻勢を仕掛ける男どもからの貢ぎ物だ。


「でもなぜそんなに何本もしてるの?」
 「・・・だれがどれをくれたのか、覚えてられない。だから全部してる」


贈り手の男からすれば、逢う時には自分のプレゼントを身につけていて欲しいもの。
でも貰った方は誰が誰のものだか憶えているはずもない。

ブレスレッドの中でも、身につけている何本かの中に自分のプレゼントがあると、
客は納得するらしい。
ユキエを問い詰めて嫌われると、元も子もないからだ。

どこかで覚えた、この世界での処世術。



食事が終わり、ユキエは今度は煙草を燻らし一服する。

そうしている間に、時間は刻々と過ぎていく。


俺は気付いていた。
ユキエは時間を明らかに潰している。
いわば、手を抜いているのだ。


「風呂、入ろうよ。時間無いし」
 「そうだ、時間どうする?」

「60分で」
 「・・・」


短い時間に不愉快そうな表情を隠す事無く、
ユキエは携帯を取り出して事務所に電話を入れる。
しかし俺もこんな態度のユキエに対して、長く時間を取る気は無い。
つい30分ほど前まで抱いていたこの娘への懐かしさと温もりは
確実に失せ始めていた。


 「もしもし、ホテルCの308。60」


ぶっきらぼうに言い切るとすぐに二つに折り、バッグに投げ入れる。


「怒ってるの?」
 「・・・ちょっとね」


そういうとユキエは立ち上がり、さっさとその場で服を脱ぎ出した。
下着まで遠慮なく脱ぎ捨て、ためらう事も無く全裸で歩き回る。


風呂場。シャワーを全開で出す。
ユキエは大事な部分だけさっさと洗い、自分から湯船に入った。
あとは自分で洗え、と言う事らしい。

俺も女の態度に不機嫌なまま身体を洗い、湯船に浸かる。


ユキエは俺に背中を向けて、体躯座りをしていた。

その背中は、半年前よりも幾分か肉付きが良くなっていた。
充分な女の色気をかもし出している。

機嫌の悪かった俺でさえ、ついユキエの背中にそそられてしまう。
女の肉体の不思議さだ。


 「・・・ゴメンね、何だか」


唐突に俺に聞こえたあまりに意外な一言は、妄想でも聞き違いでもなかった。



<次号に続く>

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