華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2003年04月06日(日)

春はまた来ぬ。 〜個人的趣味〜


風俗誌の広告を飾る言葉の中でも、俺が特に弱いものがある。
この言葉が目に留まると、なぜか心の琴線に触れる。


『長身のモデル体型』という宣伝文句だ。


この「華のエレヂィ。」にも何人かのモデル体型の風俗嬢が登場した。
それは俺がこういう女性が外見上の趣味で、からきし弱いからでもある。

どうせ安くない料金を払うなら、自分好みのいい女に相手してもらいたい。
俺の場合、その基準は「表情」と「スタイル」になる。

美人でも冷たい女性は嫌なので、写真での表情でも明るい女性がいい。
そしてモデル級のスタイルならば最高だ。

当然、実際に付き合う女性にはこういう条件は当てはめたりしないが、
一期一会の風俗嬢を選ぶ基準としての『趣味』は確かに重要だと思う。




南からの桜の便りが連日テレビで紹介されている頃。
名古屋はまだ蕾が膨らみ始めたくらいだった。
暖かい日差しと冷たい風とでまだまだ春になり切れていない時期だ。


営業途中の空き時間。
住宅街の中にある児童公園の駐車場。
うららかな午後の日差しが、俺の眠気を誘う。
いつものように車内で眺めていた風俗情報誌で一人の女性が紹介されていた。


純和風の顔立ちで表情が明るく、手足も長い。
次々と展開されるグラビアのセクシーポーズも決まっていて、動きに無駄が無い。

彼女の源氏名はリコ。
紹介されていた経歴では「元モデル」のヘルス嬢だった。


168センチという身長もさる事ながら、彼女の雰囲気に興味を持ったのだ。

早速店に電話してみた。
この業界にしては珍しく、温和で丁寧な口調の受付が応対してくれる。


 「リコちゃんですか?本日は夜7時からの出勤になっておりますが・・・」


俺は夜9時に予約を入れた。

電話を切った後、車のシートを後ろに倒して身体を預けた。
そしてビニール張りの天井を眺めながら、ぼんやりと思いを馳せていた。

リコの雰囲気は昔好きだった女に似ていた。

思いが全く通じなかった、片思いの苦い思い出。
今でもその苦味は褪せないが、徐々に微笑ましい懐かしさに昇華しつつある。


店の規定で予約の一時間前に一度確認の電話を入れる事になっている。


 「リコをご予約の平良様ですね・・・申し訳ございません」


突如生理が始まったので、本人の申し出で急遽生理休暇を取ったという。


 「今夜は他の女の娘も多数出勤しておりますが・・・」
「結構です」


気分を悪くした俺はぶっきらぼうに電話を切った。

ああいうタイプの女には、どうにも振られる運命にあるらしい。
しかし店の応対から見ても、悪い店では無さそうだ。


10日後。
数日前に桜前線が通過した名古屋市内の桜は見事に満開である。
各所ではお花見に盛り上がる酔いどれ集団を見かける。

俺は再び店に電話を入れ、リコを夜9時に予約した。

8時前に確認の電話を入れた。


 「分かりました。それでは9時にお待ちしております」


今日はきちんとお相手してもらえるらしい。
店の場所を確認すると、栄のビジネス街だった。
大手銀行やビジネスビルと風俗店が混在する、一種異様な地帯だ。

駐車場の心配があったが、幸運にもお花見に赴いているのか空いていた。
路上駐車スペースに縦列駐車し、サイドブレーキを引いた。

早速店の看板を探し出し、ビルに入る。
ビル内の全テナントが風俗店という風俗ビルである。
中の細い通路には、各店舗の広告や系列店のチラシなどが乱貼りしてある。
その通路の突き当たりに小さいエレベーターがある。


俺は4階のボタンを押す。
軋みながらドアが閉まり、やがてゆっくりと上昇し出す。

ドアが開くと、そこはすでに店内だった。


 「いらっしゃいませ!ようこそ!」


元気な・・・というよりも威勢の良い店員の歓迎を受けながら、
俺は靴を脱いで待合室に入る。

そこで靴の番号札を預かり、料金の支払いを済ませてしばらく待つ。

俺以外に数人の客がいたが、場所柄か背広姿のビジネスマンばかり。
今日は土曜日だったが、仕事帰りなのだろうか。
決して互いに他の客と目を合わせようとしない。
その中で俺は落ち着きなく周囲を見回したり、雑誌を手に取ったりしていた。

15分ほど待っただろうか。


 「リコちゃんをご指名のお客様、どうぞカーテンの中にお入りください」


俺はその案内に従って、分厚いカーテンの中に入った。


 「いらっしゃいませ、リコです」


可愛い声の主は、紛れも無くグラビアと同じ微笑みをたたえた彼女だった。
俺と全く目線の位置が変わらない。やはり長身だった。


「こんばんわ」
 「こんばんわ、私、初めてですよね?」

「初めてなのに指名しちゃって、生意気だったかな?」
 「ううん、嬉しい」


リコは笑顔で俺の腕に絡みつき、部屋へと案内してくれた。

部屋はやはり必要最低限の広さしかない。
リコはベッドに腰掛けて、俺に隣りに座るように促す。


 「お客さん、雑誌か何かをみたの?」
「ああ、いつも読む情報誌でね」

 「あの写真ね(笑)実は3年半前の奴だからね・・・見る影無いけど」


メントールのタバコを燻らしながら、あの掲載写真は現役モデル時代の
宣伝写真だったと舌を出した。

その現役時代の写真と比べても、現在のリコは一回り太っている。
スレンダーなあの雑誌の写真と比べても、顔も体型も丸い。


 「だからあの雑誌を読んで来るお客さんには詐欺だ!って怒られるの」
「詐欺とはひどいねぇ(笑)」


姉御系のさばけ方からか、自虐的な言葉にも悲壮感は感じなかった。

でも高い金を払って駆けつける一見の客からすれば、
今のリコでは「期待外れ」と受け取られても仕方ないかも知れない。
風俗の客にとって大事なのは、嬢の人柄ではないからだ。


 「早速シャワー、入ろうか?」


リコはすっと立ち上がった。
背筋の伸びた立ち姿は、さすがに美しい。一種のオーラを感じた。



<以下次号>








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