華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2003年04月07日(月)

春はまた来ぬ。 〜手術痕〜


彼女は俺に背中を向けてスリップの紐を肩から滑らせ、真下へ落す。


「身長、本当は幾つなの?」
 「172〜3じゃないかな?」

「でも168って雑誌に書いてあったぞ」
 「・・・そう書かないと、背が高すぎてお客さん来ないもの(笑)」



俺は背の高い女性が好きなのだが、
リコが自らの経験上から話すには、背の高い女が苦手な客が多いのだという。

そのために逆に低くサバを読む苦心を感じる。


風俗に来る客というのは、本当に気の弱い男が多い。
突き詰めて考えると、金を払って人間の本能である性欲を果たすという
行為自体も情け無いのだが。

本来、Sexに必要なのは愛情や快楽であって、金銭など必要ないはずだ。


 「だからね、大柄な私を見た途端にチェンジを申し出るお客もいるの(笑)」


気が弱くとも、男は男。
金を払って買った女にまで見下されるのは我慢ならないのかもしれない。

小柄な女性がもてはやされる、ロリータ系の歌手やタレントが人気がある、
相変わらず減らない少女への犯罪行為・・・
こんな風潮もどこか『男』がさらに弱くなった証拠なのかも知れない。


リコは下着を取り、産まれたままの姿になった。
身体の線は全体的に崩れ、とても『元モデル』とは思えない。
俺も人の事は言えないのだが・・・

狭いシャワー室で向き合って下半身を洗ってもらう。
リコの身体に目をやると、不思議な光景を見てしまう。


「あれ?ヘソ、2個あるじゃん」
 「これ?ああ(苦笑)」


リコの腹部にはヘソのすぐ下辺りにもう一つくぼみがあった。
困った様な顔をしたリコに、俺は軽口を思わず謝った。


 「いいよ、これね・・・取ったの」


昨年の5月。
某人気歌手が卵巣腫瘍で片方の卵巣を摘出したというニュースが流れた。

実は彼女も同じ病気で左側の卵巣を摘出していたのだ。
二つ目のヘソはその手術痕だった。

卵巣・子宮などの女性器系の病気で悩んでいる人は思ったよりも多く、
彼女の周囲にも何人も治療を受けている友達がいるという。
リコはその手術痕の経緯を話してくれた。


まだ本名だった彼女がパティシエを目指して製菓の専門学校へと通っていた頃。
そこのオーナーと知り合いのモデル事務所社長にスカウトされた。

しかしモデル志願ではなかった彼女は断ったものの、社長に熱心に口説かれ、
その専門学校のパンフレットに限ってモデルを勤めることにしたという。

そのパンフレットが広告業界の目に留まり、次々と仕事の依頼が舞い込む。
仕事の面白さを理解し始めた彼女は、間もなく本格的にモデル業を始めた。

勉強熱心な彼女は精力的にモデル業を勤めた。
九州圏中心の雑誌やパンフレット、時にはテレビCMなどにも登場したという。
あっという間にモデル事務所のトップモデルとなった。

決して家庭環境に恵まれた訳ではなかった彼女はモデル料を貯金して、
休学していた製菓学校への月謝に当てる計算をしていた。
親思いの優しい女性でもあった。


20歳になる前の夏頃。
急激な体調不良を訴えた彼女は婦人科で診察を受ける。
診察の結果は「卵巣腫瘍」。
野球ボール以上に腫れ上がった卵巣の摘出手術が必要だといわれた。


   これで赤ちゃんが埋めなくなる?


病床で女性として深刻な状況に人知れず心を痛める。

医師の説得を受けて、心配を掛けまいと親に内緒で入院した。
そして摘出手術を受け、身体に一生消えない傷が残った。
夢だった製菓学校への貯金は治療費に消え、さらに借金が残った。


そして最も辛い現実が待っていた。

投薬やストレスでホルモンバランスが崩れ、太り出した。
最盛期にはモデル時代よりも15kg以上太ったのだという。
その後もなかなか体調が戻らず、ダイエットもままならない。


華やかさの陰で、結果だけがもてはやされる世界。
どんな理由があるにせよ、醜く肥えたモデルには二度と仕事依頼が来なかった。


 「そんなに太って・・・君には違約金を貰いたいくらいだ、身体を売ってでも払え」


モデル事務所の社長は人として許せない言葉を残して、彼女と連絡を絶った。


 「どうしたの?こんなに太っちゃってー」
 「モデルだって聞いてたけど・・・嘘だったのか?」
 「見る影無いねー、興ざめしちゃうなぁ」


準備された振袖には袖を通さず、ゆったりしたサイズのスーツを着て出席した成人式。

故郷の成人式で再会した親友からは、冷やかしの言葉を浴びせられた。
自分の一生を掛けた病魔と対決したのだ、と・・・
冷たい言葉を吐きつけた旧友にも本当の理由は言えなかった。

そして彼女は間もなく故郷を捨てた。


彼女は憶えていた。
モデル事務所の社長が吐き付けた、女としてどうしても許せない言葉を。


 『身体を売ってでも(違約金を)払え』


実際に払う事は無い。
第一、社長は彼女と関係を絶ったのだから。

しかし彼女はその言葉にひどく憤慨していたのだ。

モデルは「女らしさ」を魅せる商売だ。
その女として生きることさえ否定されたかのような冷たさを感じていた。


彼女は風俗街という知識と、知人の居ない事を考え合わせて名古屋に降り立った。

そしてその足で即入寮可の風俗店に面接に赴く。
身体の線は崩れているとは言え、元モデルである。

面接での自分の見せ方は、度重なるオーディションで鍛えた。
男を相手にする術は、アルバイトだった水商売でも身につけた。

そして彼女は「リコ」となり、この店に勤めることになったのだ。

それから体調不良などで休んだ時期も含めて3年になるという。


「大変だったねぇ」
 「でもいいよ、もう過去の事だし。二度と戻る事もないから」

「体調は大丈夫なのかい?」
 「おかげさまで(笑)・・・卵巣も片方は生きてるから子どもも産めるし」

「そうか、だったらまだ救われるね」
 「ふふっ・・・だから生でやっちゃマズイのよ(笑)」


煮詰まった話題の中で、リコは悪戯っぽく笑って見せた。



<以下次号>








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