華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2003年08月19日(火)

傷だらけの生娘。 〜酒と女〜


俺という男は、女も好きだが酒も好きだ。


仕事での酒席では当然酔っ払うほど酒を飲まないが、
会社の仲間や気の置けない友達との飲み会では、最初の一杯は取り敢えず“ビール”。
乾杯の後、体調が良ければ一気に飲み干す。

ただ喉越しで飲めるうちは好きなのだが、そのうち苦くなってくる。

その後は酎ハイ系の甘く軽い酒に走る。


独りで飲みたい時は、行きつけのバーで時間を潰す。

俺がこだわるウォッカベースのカクテル“モスコミュール”から始まり、
マスターに季節のお勧めや入荷している果物を尋ねて、
お任せで作ってもらう。

もう一つの行きつけのワインバーでは、まずドイツ・モーゼル地方産の白ワインで
喉を潤して、映画談義などに花を咲かせながらチーズとワイン、カクテルで
決して長くない夜の時間をまったりと過ごす。


俺は今まで酒を飲むときは、居酒屋かバーばかりだった。
いわゆるクラブやキャバクラなどには興味が無かったのだ。


酒や女が好きでも、酒と女を両方同時に楽しもうとは思っていない。

仕事の疲れを癒すための酒を味わっている時に、
仕事で飲む女に、無駄に高い金を払ってまで飲みたいとは思わない。


俺は知っている。
水商売の女が男に見せない“店の裏の顔”を。


 「あの娘らは決して『客』に媚びても心は許していないから。
  高い金まで払って陰でクソミソに言われているんだから。
  でも口説き落とそうって通ってくる男の人って、可哀想よね(笑)」


昔、付き合いのあった水商売あがりの女がそう教えてくれた。

水商売は男の最も弱い部分を、それもアルコールでふやかして相手をする接客業。
きっと連日連夜、無礼極まりない泥酔客と接している彼女達からは、
斜に構えて男を見るのも仕方ないかも知れない。


彼女たちには、どんな男もきっと同じように見えるのだろう。

男の顔が万札と、耳元に囁く男の声が札を数える紙切り音に聞こえる・・・
そう思わないと、きっと耐えられない仕事だろう。

男の一番弱い部分と向き合う、接客業。
風俗嬢も水商売の女もそれは同じであろう。




 「吉井君、平良君、今まで世話になったから・・・奢るから一緒に行かないか?」

杯を傾ける仕草を見せながら、俺と仲間の一人、吉井にそう誘いを掛けてきた。

そんな俺が会社の近所に新しく出来たキャバクラに誘われた。
終業の時間に、会社の上司・野畑が俺を誘ってくれたのだ。


野畑は次年度からの転勤が決まり、東京本社へ栄転することになっていた。
遊びなれたこの界隈で羽が伸ばせるのも、もう残り少ない。


「はい、ありがとうございます!」


俺は喜んでその誘いに乗る事にした。
自腹でキャバクラに行く気がなくても、奢りでなら一度は見てみたい世界だ。

既婚者の吉井はどこか渋っていた様子だが、携帯で自宅へ電話を入れる。
饒舌にアリバイ工作を始める。

ついて来る決心をしたようだ。


その日・・・金曜日の仕事後。
近所の居酒屋で野畑と数人の仲間と食事会を済ませ、
キャバクラ組はその群れから抜けた。


会社から歩いて10分足らずの商業レジャービルの1階の一角に、
そのキャバクラは半年ほど前にオープンしていた。

着草臥れたスーツ姿の三人が、そのレジャービルの正面玄関から入る。
突き当たりにそびえる分厚く背の高い木製の自動ドアの前に野畑が立つ。

音もなくスッと開いて、野畑に続いて薄暗い店内へ足を進めた。


まず受付を済ませるのだが、野畑は受付のボーイになにやら耳打ちをする。

真面目な吉井と初体験の俺は脇のソファーに腰掛け、店内を見回す。

間接照明を多用し、落ち着いた雰囲気。
ジャズが静かに流れ、着飾った女性が忙しなく歩いている。

ジャケットを着込んだ女性従業員さえ、背筋が伸びて充分セクシーだ。

 「平良君、一番いい女を付けてやるから(笑)」

何やら普段よりも数倍態度が大らかになった野畑が、そう俺に囁く。


 「それでは野畑様、吉井様、平良様・・・こちらへ」

担当のボーイに促され、俺達はフロアに案内された。


思いのほか広く見えるフロアは全体が間接照明の薄明かり。

スポットライトを浴びて浮かび上がるグランドピアノ。
上品なスーツや和服姿の女性達が所狭しと接客している。
氷やグラスを運ぶボーイたちの無駄の無い動き。

そこは俺の予想をはるかに裏切った“大人の社交場”だった。

本皮のソファに腰を降ろすとたっぷりと沈み込み、俺の身体をしっかり受け止める。
目の前にはブランデーとミネラルウォーター、氷と烏龍茶の入ったデカンタ。
磨かれたグラスは照明が艶やかに反射して、一点の曇りも無い。


「おじゃましま〜す」

間もなく、俺達のソファに三人の女性が現れた。


 「あ〜、野畑さん!お久しぶり〜」

野畑に小さく手を振りながら愛嬌たっぷりに現れた女は、黒のワンピース。
ボディラインが浮かび上がり、メリハリのあるプロポーションが分かる。

その女は俺の隣りに少々身体を密着気味に座ると、早速ポーチから名刺を差し出した。


 「はじめまして、マナです」

名刺には、“愛沢 麻奈”と丁寧に苗字入りで源氏名が記してある。


 「平良君、この娘がね、この店一番の売れっ子なんだよ」

野畑がさも自分の女のように、自慢気に話し掛けてくる。

 「いやだぁもう野畑さん、そんな事無いも〜ん!」
  「俺がどれだけ通っても、店外すらしてくれないしな(笑)」

マナはにこやかに否定し、手を伸ばして野畑の腿を二度三度叩く。
野畑も嬉しそうにマナと冗談を言い合う。

綺麗、というより愛嬌たっぷりの容姿のマナ。
会話も上手く、しっかりとポイントを抑えて合いの手を打つ。
男性をからかっても、絶対にプライドを傷付けるような軽口を叩かない。
笑顔も可愛くて盛り上げ上手、決して客を飽きさせない。

キャバクラ初体験の俺が見ても分かるほど、彼女は客あしらいが上手い。
野畑が入れ込むのも分かる気がした。


 「名前は平良さんかぁ・・・じゃ、たいちゃん!」

名前を聞いてきたので平良だと教えると、早速ニックネームを決め付けられる。


 「たいちゃん、このお店に来たのは初めて?」
「うん、こういう店に来たの、初めてかな」

 「キャバクラデビューなんだ〜、おめでとー!」
「ありがとう、じゃお祝いに乾杯してよ」


マナが作ってくれた水割りで軽やかに乾杯する。

横目で後の二人に目をやる。
ソファにふんぞり返って自慢気に話をする野畑と、
雰囲気自体に圧倒されて、嬢と全く会話の盛り上がらない吉井。
全く好対照な光景を眺めながら、俺は丁度いい按配の水割りで唇を濡らす。


 「たいちゃん、言葉が違うね!どこの人なの?」
「俺?出身は関西だからね」

 「関西人なんだ!いいよねぇ、関西弁・・・私、好きなんだぁ」
「そう、じゃ口説くときは関西弁やな。今度昼間に会わへんか?(笑)」

 「うぅ〜ん、私も思わずついていっちゃうかもぉ」
「それって同伴(出勤)ででしょ?」

 「・・・バレたぁ?(笑)」


飾らない、気取らない満面の笑顔が何よりもマナの魅了だ。
俺も彼女が人気者なのが理解できる。

10分程経っただろうか。


脇から現れたボーイがマナに耳打ちをすると、急にマナが顔をしかめた。

 「たいちゃんゴメン・・・またすぐ戻ってくるから待ってて」


そう言い残すと、マナが席を立った。


どんな会話にでも客から目をそらさず、笑顔を崩さない。
相手の調子に合わせて、合いそうな話題をさりげなく切り出す。
そして相手の出身や職業、趣味にいたるまで決して否定しない。

接客というものをきちんと理解している。
取引先との会話が勝負である営業職の俺としても、学ぶべき部分がある女性だった。



 「マナは店一番の売れっ子だからなぁ。
  ああやってすぐに指名が掛って店中を飛び回ってるんだよ」

他の嬢と盛り上がっていたはずの野畑は、こっそりと解説してくれた。
薄暗い店内、スタイルの良いマナのシルエットが浮かぶ。
常連客らしき客の席に、また愛嬌たっぷりに付くのが見えた。



<以下次号>






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