橋本裕の日記
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2007年12月24日(月) コップの中の炎(2)

 水面に浮かべたローソクの炎にガラスのコップをかぶせると、炎が細くなって消え、やがてコップの中の水面が少しだけ上昇する。これは燃焼によって酸素が消費され、その分だけ空気の体積が減少したためだという説が有力である。私もそう考えていた。

しかし一方でこんな疑問を持っていた。酸素は消費されたかもしれないが、そのかわり二酸化炭素が発生するのではないか。化学式で書けばこうなる。

C+O2→CO2

 これによれば、酸素1分子が消費されれば二酸化炭素1分子が生じる。だから、酸素の消費によって体積が減少するとしたら、発生した二酸化炭素のほとんどが水に溶けるからだろう。しかし、二酸化炭素はそれほど多く水に溶けるという話はきかない。だからこの実験について日記で紹介するのをためらっていた。

 ところが先日、金山広吉さんの「理科研究の盲点研究」(東洋館出版社)を読んで、この疑問がたちまち氷解した。実のところ、ローソクが燃えるときはもう少し複雑な化学反応が生じているらしい。金山さんによると、それはおおよそ次のような反応式であらわされる。

 2CH2+3O2→2CO2+2H2O

 つまり、3分子の酸素が消費されて、2分子の二酸化炭素と2分子の水が生じる。空気中に20パーセント存在する酸素がすべて消費されると、20パーセント体積が減るのではなく、20×1/3しか減らない。計算では約7パーセントほどである。

たしかに酸素の消費で体積は減少するのだが、これまでの定説は1/5だったし、私の実験でも水面上昇はおおむね10パーセントを超えていたから、水面上昇を酸素の消費だけでは説明するのがむつかしい。金山広吉さんはこれにくわえて、酸素消費説に不利な決定的な事実をつきつける。

 じつはコップの中でローソクの炎が消えたとき、コップの中にはまだ大部分の酸素が残っているのだという。その量を測定すると、じつに3/4もの酸素が残っている。つまり、消費された酸素は空気全体の5パーセントに過ぎないわけだ。

そうすると酸素の消費によって生じる体積減少は、5×1/3=1.7パーセントとごく微量だということになり、とても実験事実を説明することはできない。それでは、なぜローソクの炎が消えるとコップのなかの水面は20パーセント近くも上昇するのか。

金山広吉さんによると、これはローソクで熱せられて膨張した気体が、炎が消えることで急速に冷却し、そのためにボイルの法則によって収縮したためであるという。「理科研究の盲点研究」からふたたび引用しよう。

<ローソクの炎に空のコップをかぶせると炎が消える。このとき生じるコップの空気体積の減少の原因について、コップ内の酸素が消費されたためという説があるがこれは正確ではない。その主な原因は炎によって加熱され、熱膨張した空気が下の口から漏出することである。酸素の消費によって生じる減少はあるが、それが占める割合は極めて小さく全体の1割以下で、大部分は空気の漏出によるものである>

圧力が一定だとすると、気体の体積は絶対温度に比例する。もしコップのなかの平均温度が373K(100℃)だとすると、これが室温の300K(24℃)まで下がることで、体積は1/5ほど減少する。実際ローソクの炎の上部は700℃もあるから、コップ内の平均温度が100℃になることも考えられる。金山さんの主張する熱膨張による空気漏洩説だと、実験結果をこのように見事に説明できる。

(今日の一首)

木曽川の河原に来れば冬枯れの
木立の上を鳶が悠々


橋本裕 |MAILHomePage

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