オミズの花道
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『ヤクザ屋さん相手にキレたハナシ』
2002年11月26日(火)


世の中にヤクザ屋さんと言っても色々おられます。

特にこの・・・・関西という地域、ミナミという場所は、
今更ながらの言葉ですが、本当に様々な組の方がおられます。


幸いにも私が関わった方は幹部クラスの方が多かったので、そうそう汚い部分を見せられる事はありませんでした。
皆とても紳士的に飲み、和気藹々と遊んでおられました。


それは、良い店に巡り合えたのも理由の一つだと思います。

良い店、有名店から出入り禁止を食らう、・・・・なんてのは彼らも好みませんから、そうそう無茶もなさいません。


ことに飲み屋の噂は恐ろしく伝わるのが早く、尾鰭羽鰭が抱き合わせですし、『あそこの店であんな揉め事おこしたん、あの組らしいで。』そんな事を一般庶民にまで言われてしまうのは、見栄と任侠の世界に生きる彼らには汚点でしかありません。


そんな訳で割と良い状態のまま勤める事が出来ていたのですが、たまには礼儀知らずのヤクザさんもおられます。




その日私は自分のお客様を4名接客しておりました。

と、そこに3人連れのお客様が隣のボックスに入られたんですね。
御2人は見慣れない方でしたが、御1人は顔見知りのヤクザ屋さんです。


サポートの女性が隣のボックスに座るなり、そのヤクザ屋さんが大きい声で、
なんやこの店!こんな女つけやがって!
と、怒鳴るのです。


そして私を指差して、
おいこら女!お前じゃ!こっち来い!
と言うのです。

『あ、もう少しお待ち下さいね♪行きますから♪』
・・・・・・私もプロですんで、笑顔で申しましたよ。
いちいちこんな事でキレてたら接客業ではないし。


こっち来いっちゅーてるやろ!ガタガタ抜かすな!!

・・・・・・・・。


『はーい、ごめんなさい、もうちょっと待ってね。』(でも笑顔)

そんな客放っておけ!!こっち来い言うてるやろがっ!!


ぷっち〜〜〜〜ん。


・・・・・・・そんな客。
そ・ん・な・客・やとぉ?


『・・・・・待って下さいって何回言わすんじゃコラァ!!


と、ここで。
お断り申し上げますが、この時私は感情に任せてキレた訳ではございません。

そんな客呼ばわりされた私のお客様の顔色が、みるみる変わったからです。
これはヤベェ!!、私は本能的に思いました。
乱闘にでもなったらエライ事です。

原則として。
お客様とお客様のトラブルは『絶対に』避けなければなりません。
理由はお客様の足が遠のくからです。

ホステスとお客様のいざこざは、こう申しては甘えやも知れませんが、後から幾らでも取り返しがつきます。


でも彼等は雄同士。
一端揉め出したら頭を下げる世界など存在しないと言っていいのです。
殺しあうまで収まらない!(←それは言い過ぎ。)

こういう時に全てを救うには、自分がキレるしかないんです。
すっげ〜嫌ですけどね(泣)。



『なんやとコラァ!ワレ、誰にモノ言うとんじゃ!!
 ちょっと○○の親分に可愛がってもうてる思たら調子乗ってんのんちゃうか!
 ○○ここに呼べや!イテもうたる!!』


ぶちぶちぶちっ!!


・・・・・・すいません。
ここから先は感情のみしか存在しません。
理性も分別も思慮も策略もございません。本能のみ。

しかもワタクシ、泉南(関西でもガラ悪い地域)出身なんで。
本能のまま言語が非常に野蛮になります。


『ワレ、なぁにを眠たい事抜かしとんねん!
 おどれ如きヘタレヤクザ相手にすんのに、
 何でわざわざ私が親分呼ばなアカンねん!笑かすなやヴォケ!』


ここでもう、ヤクザさん憤死状態。


『パンピー(一般人。彼が理解していたかどうかは知らん。)相手に
 エエ格好して恥ずかしないんか!みっともないんじゃ!
 飲み屋には飲み屋のルールがあるねん!
 守られへん奴は客やない!とっとと去ね!』


と、ここで皆が止めに入る。私のお客様までもが私を押さえつける。

ヤクザさんはポカーンと口を開け、手足をバタバタさせている。
(何がしたかったんでしょうねぇ。)


『な、なおちゃん!もう止めとき!!』と、私のお客様。
『ねえちゃん、もう解ったから!もうええから!』と、向こうの連れの方までが。

男6人に押さえ込まれる私。


『離しぃや!離せぇぇぇぇぇっ!!コラ、オッサン!よう聞け!
 ええか!うちらはな、小泉の純ちゃんが来ても、汲み取り屋のオッサンが来ても、
 やることは一緒なんじゃ!!世の中には順番っちゅうもんがあるんじゃ!!
 ヤクザやゆうて何でも通る思うなーーーっっ!!


かくて水上、トドメの一言。


『おどれの飲み代くらい出したらぁ!
 二度とツラ見せんな!』


ここまで言われて帰らない男が居るだろうか。
ヤクザ屋さんは椅子を蹴っ飛ばし(でも重いボックスだからビクともしないのだが)、
帰っていった。2人の連れも出て行った。


私のお客様は私をなだめにかかる。

『まま、落ち着いて。ほら飲んで飲んで。』
『もうビックリするわ。なおちゃん、止めてや〜。』
『帰り送ったるわ。恐いやろ。』


と、ここで1人の客がぽつり。
『先にキレられたら怒られへんもんやなあ・・・・。』

と、その日は終わった。(作戦は成功なのか?)



それから少しして、そんな出来事もスッカリ忘れた頃。
○○の親分が来店した。

『ぱぱぁ〜♪どうしてたのぉ〜。なお、淋しかったぁ〜ん。』
(いつもの飼い猫ちゃんモードである。)


『・・・・・・・・・。
 大人しいフリしやがって。もう信用せえへんぞ。』


あれ、何だか様子が違う。
いつもなら『そっかそっか〜可愛いのう〜。』とか言って、
紙やすり顔負けの頬っぺたをスリスリ(ザリザリ)してくるのに。


『ううん?ぱぱりん、どしたの?』
『お前・・・暴れたらしいやんけ。○組の○○○と乱闘したんやろ?』
『・・・・げ。』
『この猛獣め。可愛い子ぶっても遅いんじゃ。』


はた、と見ると親分の横には見慣れた2人が。
そう、あのヤクザ屋さんの連れである。

『凄かったでっせ。男6人に押さえつけられても跳ね除けようとするんやもん。』
『まさに猛獣でしたな。恐かったわあ。』



親分はかっかっかと笑いながら、私に尋ねる。

『俺を呼べって言われたんやろ?何でそうせえへんかったんや?』
『だってぱぱりんには関係ないもん・・・。飲み屋での話は飲み屋で解決しないと。』

『そやな。なおは賢い子ちゃんやな。お前はそういうこと言うと思たわ。
 だから俺もお前が可愛いねん。・・・待っとき。○○○、呼んだるからな。』
『え〜もういいもん。会いたくないもん。』

『そんなん言うたらアカン。ちゃんとお仕事せなアカンやろ。』
『したもん・・・・。』

『いや、まだや。 なお、客はな・・・躾けて行って、育てるもんなんやで。』
『・・・・・・・・。』

『自分が猛獣やったらアカンのや。猛獣使いになるのがお前の本当の仕事やで。』
『・・・・・・・・。いぢわるぅ。』


親分が携帯を取り出してかけている横で、2人連れがヒソヒソ話。
『このねえちゃん、あの時と同じ人間やとは思われへんな。』
・・・・うるさい、ほっとけ。



さてこの後なのだが、親分は実に見事であった。
そのヤクザ屋さんを呼びつけ(実は元舎弟)、その人に怒りまくるフリをしたのだ。

勿論これは作戦で、私がヤクザ屋さんを庇って彼に平謝りという構図を作ってくれた。

お陰で双方とも手打ちとなり、仲良く乾杯を交わし、めでたしめでたし。
そして彼は私のお客様に変わりました。




このことは私にとって大きなお勉強になったのです。

『てめぇのケツはてめぇで拭く』とでも申しましょうか。(失礼)
やはり何事も最後までやり遂げなければ、後味が悪いのだと思いました。


親分に言われたこと、本当に深く噛み締めています。
今でも。


確かに、飲み屋には飲み屋のルールがあります。
それを守る為には、時にはこういった事もあるでしょう。


ですが、それを守る事も大切ですが、
本当は、伝える事がもっと大切なのです。


勿論・・・・全ての人にそれが伝わるものではありません。



だけど『伝える』事こそが、そう努力し続ける事こそが、
本当の意味で『守る』事なんだと思いました。




あの時関わってくださったお客様に、心から感謝しています。


親分も引退し、今では一般人。
私との交流は相変わらず続いています。


そして相変わらず、
『この猛獣め。』と言われる日々でございます。





イカンじゃん。
精進、精進。


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