自然に、私の足は、会社へ向かっていた。
まさか、社長が休日出勤していたなんて・・・・
私は、会社の向かいのビルの階段を駆け上がり、 その窓から、じっと、会社の玄関を観察し続けた。
彼が、玄関から出てくるのを期待して・・・
ところが、一向に出てくる気配はなかった。
もしかしたら家に電話があるかもしれない。 そう思い直して、家路を急いだ。
何も知らない周りの目から見ると、かなり奇妙にうつっていただろう。 それくらい、周りの目も気にならないほど、悲壮な顔つきでそわそわしていた。
もう、5時を過ぎていた。家に着くと、妹がいた。 私は、ぷつんと、緊張の糸が切れ、わぁっと妹に泣きついた。 「どうしたの?!」 妹は、私の話の一部始終を黙って聞いた。
得意先の人をよそおって、妹に会社に電話をかけてもらった。 「わかった、いいよ」
「○○会社です。お世話になっております。中村さんは、いらっしゃいますか?」 そう言葉をかわして、次に妹は、そっと私に、受話器を渡した。
電話に出たのは、彼だった。 私からの電話を待って、一人で会社に残っていたのだ。
「私、大変な事をしてしまったの!!!」 私は、今日起こった全てを泣きながら彼に話した。
「なんだ、そんなことか、おれはお前が事故でも起こしたのかと 思って、びっくりしたよ。これから会って話をするか?」
彼は、落ち着いていた。 「そんなの全然へっちゃらだよ」とでも言いたげだった。
私は、安心して、彼に会いにでかけた。 しかし、郊外デートを楽しむ心の余裕はなかった。 結局、いつものように飲んで、ホテルへ・・・・・
次の週初め、緊張して会社へ行ったが、不気味なほど社長に変化はなかった。
あくまでも、この日だけは・・・・・。
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