書泉シランデの日記

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『魔笛』シュツットガルト歌劇場
2006年02月17日(金)

コンヴィチュニーの演出だ、というので、一回見ることにしょっかぁ、とチケットが買ってあった。前にコンヴィチュニー×シュツットガルトでのリングをテレビで見たけれど、面白さ半分、呆れ半分、満足はまあテレビだからね、という印象だった。あのときは歌手も大半が相撲部屋級だったし。

『魔笛』はよくオペラ入門に持ってこられる演目だが、通しで見ると、あんな一貫性のない作品がよくぞ今日まで愛されている、と思うばかり。ストーリーを気にしたら、気持ち悪くて仕方ない。そこを割り切ってみれば、いいところも沢山ある。台本が粗雑(こんな風に言っていいんだろうか、モーツァルト様ごめんなさい)だから、演出家には自由が許されるという利点があるだろう。

でもね、これはオペラなんだよ。台詞も多いけれど、基本は音で運んでほしいと思う私は素朴なコンサバである。

オケはねえ、もっと腕のいいオケがたくさんあるよね、って感じ。有名じゃないくだりだけを聞いたら、モーツァルトだってわからないかも。でも、合唱は◎でした。演技のできる合唱団なんてそうそうないし、合唱は楽しめました。『魔笛』は合唱のいいところ多いものね。

ソリスト、タミーノは×(この役はヴンダーリヒの声が染み付いているのです)、パミーナはパミーナなんか歌うより、もっとほかの役、たとえばマイスタージンガーのエヴァとかどうだろう?パパゲーノねえ・・・普通に歌ってくれれば結構よさそうなのに、コンヴィチュニー先生はなかなかそうさせてくれないもんねえ・・・演技のできる歌手なのか、歌の上手な役者なのか、わかりません。

で、演出ですが、覚悟していたとはいえ、悪ふざけ満載。性的なほのめかしも随所に・・・小さなぬいぐるみを二つずつ大人数人がもって出てきて、遊んでいるように見せかけながら、交尾させてるってねえ・・・まあ、いいけどさ、そのくらい。歌っている声帯のどアップをスクリーンに出してみるのもねえ・・・。そのほかいろいろ、国際会議シーンでハングルが流れる仕掛けや(ザラストロ役が韓国人歌手)、劇中劇のような仕立てもあったし、それで舞台をまとめるのだから器用なもんだというほかありません。好き嫌いは当然でしょう。でも、モーツァルト自身はこういうの、きっと好きだわね。

私自身は、古典が伝統の再現に終始するだけなら絶滅間近だと思う。演出の冒険は基本的に歓迎するけれど、古典として愛されてきた部分を「再生」させないとただの悪ふざけに堕すのではないかしら。で、今回のは?う〜ん、これはオペラなんだよ。音楽的な流れが寸断されてしまい、高みに至らないのは嫌だな。隣の老夫婦、おじいさんは怒っていたよ。でも、コンヴィチュニーだから、そのつもりで来てよ、である。これが生涯初オペラの人は、気の毒だけれど、オーソドックスなので、もう一度見てください。

それにしても『魔笛』ってこんなに、女は男の指導監督のもとでないと過ちを犯す、というメッセージが強かったっけ?今回やけにその手の台詞があったけれど、それは現代へのカリカチュアライズされたメッセージなんだろうか。



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