かたほうだけのパンプス
敦子



 通院

銀行ATMで千円を引き出さなければ財布の残高

は233円だった。

百円玉一枚と五十円玉が二枚で二百円が構成できる。

あとは、十円玉と五円玉と一円玉がごちゃごち

ゃとあってどうにか数えれば33円が構成できる

というような財布の大きさからすればとても想像

できないような所持金。

これは昨日のことで、昨日は月一回の通院で

いつもの血圧計測に脈をとることに加えて心電

図に採血と胸のレントゲンを撮った。

この病院は、以前通っていた病院の外来が閉鎖

されるというのであわてて引き継ぎで通うことに

した診療所。

ドクターは、あくまでも引き継ぎなのでどうしても

治さなくてはいけないとか、私に対して責任がある

という姿勢が感じられない。診察の際も私の顔色

よりもDELLコンピューターの画面の操作に懸命

でこちらを全然見ていない。私がほかの人と入れ

替わって診察を受けたとしてもきっと気付かない

んだろう。

「相変わらず、心臓の動脈硬化が心配なのが心

電図から読み取れるねー」

私が最後の患者。夫と行くといつも最後の受付で

最後になる。

病院で他の患者と同じ空気を吸っていたくないか

らなるべく合わないようにということなのだが、

診察がいつも最後ってのもそれはそれでいやなの

だ。そのあと道路を隔ててすぐのところの調剤薬

局へ。こちらも最後だから私たちの調剤分が終わ

るか終わらないうちからさっさと片付けをはじめ

る。外の看板をうちに仕舞い入れ、テレビを消す、

雑誌を並べ変えるなどをしている。

そのあとショッピングモールへ行き、銀行ATM

で千円を引き出してどうにか所持金を千円以上に

してスーパーのなかへ。スーパーのなかは師走気

分が広がっていた。

私は所持金からするとマッチ売りの少女みたいで

カゴに買い物を山積みする人とすれ違うごとに過

酷な現実から逃避したいと思うマッチ売り少女症

候群なような錯覚。動脈硬化の疑いのある心臓に

とても悪い。また来月通院せねば。



2012年12月08日(土)
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