「硝子の月」
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2002年01月08日(火) <成り行き> 瀬生曲

「ほら手ぇどけろ! 洗ってやるから!」
 そう言いながらグレンはのた打ち回るシオンの頭からきれいな水を豪快に掛けた。
「面倒見がいいわね」
 ルウファが感嘆にも似た声を発する。台詞と行動の間にある差は些細なことであるらしい。
「何つーのかな、俺って苦労性だから」
 わざとらしく言いながらもう一杯水を掛けてやると、屍と化している青年を捨て置いて猫洗いに戻る。
「それで彼と一緒にいるの?」
 ルウファの言う『彼』とは確認するまでもなくティオのことである。
「まぁなぁ……苦労性故っつーよりはただのお節介だわな。ほっとかなかったつーか……成り行きのほうが強いかな」
「『成り行き』、ね」
「お嬢ちゃんは『運命(さだめ)だ』って言うか?」
 どこか含みのある少女の声音をからかうように問う。
「内緒」
 花のほころぶように少女は笑んだ。


紗月 護 |MAILHomePage

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