2001年12月25日(火) |
中学野球を変える No.1 |
中学時代、野球部の先生はとてつもなく怖かった。「この人には情という言葉がないのか」と思うほど、采配もシビアだった。 練習試合では、ひとつのミスでベンチに下げられることもたびたびあった。イニングが始まる前に内野陣はボール回しをするが、そのボール回しで暴投をしてしまい、1回表の守備につく前にベンチに下げられた選手もいた。 エンドランで、フライを上げようものなら、即交代。打席に立つたびに、「エンドランのサインは止めてくれ」と思っていたほどだ。とくに、「1アウト、あるいはノーアウトランナー3塁」でエンドランを出されると、心臓が止まりそうなほど緊張したのを覚えている。 ランナーが3塁から走ってくるため、打者はバットに当て、なおかつ必ず転がさなければいけない。得点の確率は高いものの、リスクは相当高い作戦だった。
中学野球は大会が進めば進むほど、1−0や2−1など、ロースコアの試合が多くなる。投手が良ければ、軟式ゆえにそう簡単に打ち崩すことはできないからだ。そこで、「ランナー3塁」でのエンドランという奇襲が生まれた。
先日の神奈川新聞にこの作戦を最初に使ったのが、筑川利希也の母校である東林中(神奈川県相模原市)の佐相真澄先生だと書いてあった。佐相先生については、第1回の日記で少しだけ触れたが、中学野球界では名将と呼ばれる先生であり、過去に赴任した中学を、全て全国大会に導いた実績を持っている。92年には、「エンドラン」を多用し、全日本少年軟式野球大会で見事3位に入賞した。
佐相先生が赴任するチームは、他を圧倒する打撃力をもつ。練習の大半を打撃の時間に割き、自身の打撃理論を教え込む。月に数回、野球の理論を自ら書いたミニ新聞を選手に配る。全ては、「上で通用する選手になって欲しい」という願いからだ。
今年の夏、大和引地台球場で神奈川県中学大会を見た。東林中の打撃は圧倒的だった。他のチームは軟式ボールの特性を生かそうと、叩きつけるバッティングを多用し、足で稼ぐヒットを狙っていた。県大会レベルになると、投手が良いため、1−0で勝つためには最適な策である。しかし、東林中は違った。しっかりと腰の座ったバッティングを見せ、初戦ではコールド勝ちを収めた。 以前、「軟式と硬式で打ち方や教え方は違うんですか」と尋ねたことがある。 「いや、基本的には一緒だよ。しっかりとした技術を教えてやれば、軟式ボールでも打てるようになる。叩きつけるバッティングで打っていても、上に行ったら通用しないから」と先生は答えたていた。
そういえばと、ふと思い出すと、夏の県大会でも東林中は「エンドラン」を使っていたが、エンドランでもしっかりとした打撃をしていた。「当てよう」「とにかく転がそう」という打ち方ではなく、いつもと同じように打ち、ゴロを転がしていた。 先生曰く、「エンドランだって、きちんとした打撃が出来て初めて成功する作戦だから多用してきた」。
東林中は、今年8月に行なわれた『Kボール世界選手権』に日本代表として出場し、見事3位に輝いた。先生が指導してきた理論が、世界でも通用することを見せた。
東林中のスコアを見ていると、5−0、4−3、3−1など、自分が中学生のときには考えられなかった得点スコアであることが多い。「とにかく打ち勝つチームを作りたい」と以前言っていたことを思い出す。目先の勝利に拘り、1−0で勝つよりも、しっかりとした打撃理論を教え、上でも通用する選手を育てる。
佐相先生のような考えをお持ちの方が、神奈川の高校野球を支えているのだと思う。
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