キ ミ に 傘 を 貸 そ う 。
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去年の年末にAさんに会ったときの別れ際に Aさんはいつものように鞄からネックウォーマーを取り出して首につけた。
あったかそうですね、というと 『はるかちゃんにあげるよ。』と首からそれを外してそのままくれた。
そんな悪いからいいです、と言っても 『いい。いい。』と言ってきかなかった。
私はそれを大切に持ちながら年を越してしまった。 あたたかくて、とても哀しかった。
Aさんは不思議だ。
人間としての不思議な"強さ"のようなものを身につけている。
例えば、(前回も書いたけれど)誰かと別れても引きずらない、 好きな人が他の人と会っても嫉妬しない、 独占欲が無い、など…。
私が、お客さん(しかも既婚者)に密会に誘われたと報告すると、 『あのおやじマジか!笑 一回ちゅーでもすりゃ満足すんじゃねぇの?笑』 と爆笑しながら言う。
しかもそれが嫌味な感じがしない。 これは私がそう感じるのが特殊という訳ではなくて 誰もがそう受け取れるような感じで。
本当に誰にでも嫉妬しないかは分からない。 私のことなんて、どうでもいいから妬かないのかもしれない。 やっぱり後者かもね。
先日、Aさんが仕事終わりに私の部屋にやってきた。 「帰るおうち間違えてますよ、、、笑」と言うと 「え?知らないー。笑」と言ってずけずけ上がって来る。
仕事終わりのビール、日本酒を飲んであっという間にAさんは"オフの顔"になった。
大きなクッションに身を預けて眠ってしまった。
私は眠らずにずっと寝顔を見ていた。 数十分後、Aさんをきちんと"ほんとうのおうち"に帰らせた。
私は一体何をしているんだろう、と思う。 何もかもが麻痺してきている。 自分を、自分だと思えなくなっている。
こんなことを続けていてもしょうがないのは分かっている。 時間の無駄だということも分かっている。 それでも、自分が本当に好きになってしまった人と 少しでも一緒に居たい気持ちの方がどんどん大きくなっている。
でもこんなのもうダメだよ。
誰もあたしを救えない。
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