ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

Mail   Home   Bbs

Back   Index   Next

2002年03月20日(水) ファルセット
助けて、助けて、あいつが追ってくる。
長い髪振り乱しはさみを構えてあいつが追ってくる。
あいつって誰なんだろう。このはてしなく広がる荒野はどこなんろう。
わからない。
「走るの、遅いね」
あいつの声は、変声期独特の嫌な声だった。
わたしはあいつにつかまった。
あいつの細い腕が、崩れ落ちたわたしの足首をつかむ。助けて、と、思わず声がでる。
「どうして逃げるの?」
あいつが言う。
あいつの顔を、見ようと体をひねる。
あいつがしゃがみこむ。
「ねぇ、ねぇ」
あいつがわたしに顔を近づける。その長い前髪がじゃまして、顔が良く見えない。
つややかな唇だけが、はっきりと見て取れる。
血のように紅い。あいつは舌を出すと、自分の下唇をそれでゆっくりとなぞる。
それがあまりにも怖くて、わたしはまた逃げようとする。
あいつの手が伸び、わたしのスカートのすそをつかむ。わたしの足首を地面に押し付け、わたしを歩けなくさせる。あいつがわたしに問いかけた。
「どうして逃げるの?なんでこたえてくれないの?」
怖いからだよ、そういいたいのに言葉が出ない。
やだ、やめて、そういうのが精一杯だ。
わたしは逃げようとする。でも、あいつの力は強い。
逃げられない!
息が苦しい。多分、わたし今泣いてる。
「助けて!」
やっとはっきりと声が出た。けれどわたしの声に反応する人はいない。太陽さえ見えないのに、空は青く突き抜けている。
あいつが唇の端を持ち上げる。きっと笑っているんだ。
「助けてほしいの?」
そうだ、という意味をこめて首を持ち上げ、縦に振る。
「無理だよ」
どうして。
「どうしてだと思う?」
わからないよ。
「だって僕は君だから」
そういうとあいつははさみで髪を切り落とした。長い髪の向こうから出てきたのは、わたしの顔だった。わたしにそっくりな、でもわたしじゃない、顔。
おそろしくて悲鳴さえ出ない。
「僕は君の悪意。君の心の中でもっとも醜くもっとも美しいもの。僕は君の憎しみ、嫉妬、憎悪、自己嫌悪、後悔、殺意、自殺願望、破壊衝動」
まって、やめて、と叫ぶ。
「ねぇ、悲しみはちがうの?」
そう、今のわたしの中を占める心、それは諦めにも似た悲しみだ。それがもしあいつの一部なのだとしたら、わたし、きっとあいつに取り込まれてしまう。
「悲しみ?奴は清くて尊いね。悲しみは、君の、ここにある」
そういって、あいつはわたしの体を起こし、わたしののどを細長い指でなぞる。爪はとがり、光沢を帯びている。
わけがわからない。
「君には僕は殺せない。僕には僕を殺せない。でも、僕は君を殺せる。わかる?どうしてだか」
泣きそうなあいつの声。裏声にも似ている。
わからない。何を言っているのか。
首を振るわたしを、あいつはあきれたように一瞥して、あいつは
はさみを
 ふ
   り        あ
  げ  
     た
       。
    お
            ろ
   し
 た     
         さ    さ
っ    




た。



はっと、気付くと布団の中だった。
夢だ。
「今時夢オチかよ。最悪」
そんなことをつぶやきながら、顔を洗いに起き上がる。
蛇口をひねり、冷水を出す。ふと、視線を上に上げる。
鏡の中に人がいる。

それはわたしではなくて、あいつだった。



「」「」「」


ここからさきは、お願いです。
ここのサイトには掲示板がないので、
読んだ方は、よんだよ、とでもメールフォームから送っていただけるとうれしいです。
お願いします。


My追加


Design by shie*Delicate Erotic
thanks for HTML→HP WAZA !
thanks for photo→K/K