ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

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2002年03月21日(木) 愛について
丹羽の部屋に入る。
丹羽はもうそこにはいなかった。
パソコンのモニターがぼんやりと光を放っていた。電源を消し忘れたようだ。
wordが立ち上がっている。
長い長い文章。それは、ひとつの小説だった。わたしは丹羽が使っていただろうずいぶんと低い(丹羽は背が低かった)椅子に腰掛け、その小説を読み始めた。
主人公の名前は「ヨウヘイ」。丹羽の名前は「祥平」。わざととしか思えない。
主人公は転校生だ。東京の(丹羽は東京に憧れていた)中学に編入し、一日目にしてクラスの中心的人物になる「ヨウヘイ」。小説は「ヨウヘイ」の過ごす学校生活を描いたものだった。
ヨウヘイは恋をする。相手はクラスのマドンナ(これは丹羽が文中で使った表現だ。なんと言うセンス)である「サナエ」。わたしは気味が悪くなった。わたしの名前は「サナ」。偶然だといいのだけれど。
ヨウヘイはチンピラ(これもまた丹羽の表現)に絡まれるサナエを助ける。サナエは真っ白のハンカチをポケットから取り出し、ヨウヘイの擦り傷に当ててくれる。(洗ったほうがいい気がする)。サナエはありがとう、とだけ言うと、小走りに立ち去ってしまう。
そこから先、ヨウヘイの感じたサナエのハンカチのぬくもりだけで、一ページ使われている。偏執狂、という言葉がわたしの中に浮かぶ。一文書き抜こう。
『サナエが僕の傷口に当てていったハンカチはほんのりと暖かく、そのぬくもりの中に僕はサナエのやさしさ、そう、町外れの教会の聖母マリアの絵を見たときに僕が感じたものとそっくりなものを感じた。』
つたない文章。丹羽はキリスト教ではないし、教会に言ったこともなかった。
そして次の日、ハンカチを返すヨウヘイにサナエが告白する。
『ヨウヘイ君……、好き……』
ヨウヘイはサナエを受け入れる。
二人はクラス公認の中となり、ヨウヘイに片想いをしていた女の子(その数六人)も相手がサナエならね、と二人を認める。
そして体育大会でも文化祭でもヨウヘイは活躍し、サナエとの中は進展していく。
文化祭の後夜祭、フォークダンスのあと二人は輪を抜け出し、屋上で愛と命について語り合う。
『僕は思った。愛、というのは不確かなものかもしれない。しかし、僕が今感じている、この気持ち、やわらかく、すこし切なくもある、それが愛。それだけは確かだ』
ちなみに、丹羽に恋人はいなかった。しかしいつでも誰かに恋をしていて、相手は丹羽のストーキングにも似たアピールに恐怖感を覚えた。
とりとめもなく物語りはつづき、劇的な終幕を迎えるでもなく、「それからも幸せに暮らしました」という形で、締めくくられる。
最後に、「ヨウヘイ」ではなく、「祥平」の気持ちがあとがきのようにかかれている。
『僕は、ヨウヘイになりたかった。でも、ダメだった。僕は醜い。さようなら』

机の引出しを開ける。
何も無い。
丹羽は、どこかへ行ってしまったのだろうか。

つづく。多分、明日に。

気付けば大好きなサイトの模倣っぽくなってて、こまりげす。
大好きだから、なのかね。


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