ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

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2002年03月28日(木) 最終回は突然やってくる。
 新連載ってすごく好きだ。小さい頃読んでいた雑誌があった。おはなしとかちょっとしたマンガとか「やってみよう」みたいなのがたくさんのってるやつ。それの次号予告で「来月、新連載!」とか書いてあるとわたしの胸は高鳴った。最終回は、嫌いだった。
 作者が死んで終わる、一話完結ものはすごく完璧に見えた。
 その作品の世界はけして動くことなく、そっと閉じていく。いや、開いたままだ。

 ドラえもんの最終回の、噂と言うのがある。
「ドラえもんなんて本当はいなくて、すべての物語は、植物人間状態ののび太のみた、夢だった」と言うものだ。わたしはそれを聞いたとき、真っ先に思ったのが、「ドラえもん」という話自体がないのではないだろうか、ということだ。
 そのドラえもんの噂話も、今目の前にいる人間も、わたしが見ている、夢だったら。
 そのときそう思い初めてまだわたしは、夢の中にいるような感覚で生きている。


 エリカは言った。
「エリカにとって特別な名前、なの。エリカって言うのは。パパもママもエリカのこと、エリカ、って呼ぶの。エリちゃん、とか、そんな風には呼ばないの。エリカって言葉は神聖な響きさえ含んでいるようにエリカには感じられる。エリカ、って自分の事呼ぶなってエリカ、何度も言われた。でも、こうでもしないと、エリカ、エリカでなくなっちゃうよ。でもね、エリカっていたの。たくさんいたの。英語の先生、いるじゃない?あの、外人の。あの人、エリカって言うじゃない。そしたら去年、最初の授業で自己紹介させたとき、エリカが、マイネームイズエリカって言ったの。エリカ、苗字なんて要らないから、エリカ、って言ったの。そしたらあの外人、オーウとかワーオとか言ってわたしもEricaよ、よろしくって言ったの。もちろん、英語でよ。
 そのとき、エリカの夢は終わったの。そのドラえもんとおんなじだね。エリカが特別だって信じてた、美しいと信じていたエリカとそのまわりの世界はエリカがずぅっとずぅっとみてた夢でした。って感じ。もう一度、夢がみたい。わたし、将来、結婚したら、だんなさんに、わたしのことエリカって呼ばせる。でも、そのだんなさんがエリカ以外の人をエリカってよんでたとしたらエリカ、だんなさん、殺しちゃうよ」
 一息に言い終えると、大きく息を吸って、吐いた。その吐息はどこか甘い匂いがした。

 エリカは、今の会話で、なんどエリカと言っただろう。わたしは考えてみる。そして、エリカに尋ねる。今、何回、エリカって言ったと思う?と。それを聞くと、わたしは目を閉じた。エリカの言葉に集中するために。エリカは一度に話す量がすごく多い。甘ったるい声で、でも早口で、今言わないと死んでしまうとでも言うようにまくし立てる。そうだ、エリカはいつだって人の四倍ぐらいの速さで生きている。

「何回言ったかな?エリカって。でもね、本当はエリカ、エリカって言葉が在れば生きていけるんだ。まわりの人が、エリカって微笑めばエリカ幸せ。エリカって、口調を荒げて言えばエリカ反省する。エリカって、愛を込めていってくれればエリカ愛を返す。
 広辞苑ってあるじゃない。でもあんなに言葉ってあるべき?」
 急にエリカはゆっくりと話した。ゆっくり、はっきり、と。四倍速のエリカが、突然標準モードになる。
「ほんと、エリカだけで良い」
 エリカは私のほうを見た。
 わたしはすこしさびしい、と思った。わたしは自分の中の感情を、「さびしい」と言う言葉にして、まとまった気分になっていた。もし、言葉が、なかったら。
「広辞苑っておっきいよねー。重いし。ん?こういう場合は厚いっていうのかな?」
 そうだね、とわたしは同意した。
「あれで人殴ったら、殺せるかな?」
 殺せないよ、なぐってみる?とわたしが言うとエリカは笑った。子供みたいだ。子供なんて嫌いだ。幸せと恐怖しか知らないから。羨ましいのかもしれない、エリカが。でも、それと同時に今すぐにでもこの場を―ここは汚い教室だ。まったく、特別でもなんでもない場所。ただ、そこにエリカがいるというだけ―去りたいような気分にさえなる。
「でも、あの中にある言葉全部ぶつけたら、きっと人は死んじゃう。綺麗な言葉もあるけど、ほら、綺麗な言葉ってすぐに忘れちゃうじゃない。エリカ、格言とか苦手。でも、嫌な言葉はずぅっとエリカを責めるの。だからきっと死んじゃう」
 エリカはまた嬉しそうに笑った。
 汚い言葉、わたしは何度心の中でエリカにぶつけただろう。綺麗な言葉、エリカからなんどあふれ出てきただろう。格言など、吹き飛ばせる。エリカ、の一言で。
 エリカは知っているのだろうか?
 言葉より重くはないけれど、広辞苑より重いものだったら、わたしだって、たくさん持っている、と言うことを。



★★★
自由に表現し、発表する。
こんなこともできないような国に、もしかしたら、なってしまうかもしれない。
青少年有害社会環境対策基本法案に、絶対に反対します。
http://members.tripod.co.jp/event0307/(ごめんなさい、コピペでいって)

あと、メールアドレス、およびメッセンジャーのアドレスを変えました。
neverendingcake@hotmail.comです。
よろしく


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