lucky seventh
DiaryINDEX|past|will
燃えろ
燃えろ
両腕を天(ソラ)にのばし
きみもぼくも笑う
燃えろ
燃えてしまえ
薄紅色ノ煉獄 ウスベニイロ レンゴク
いつもと変わらない帰り道 桜並木のした、少女がほんのすこし前を歩いて その後ろに少年がすこし離れてあるく。
「ちぃ」
歩みをとめることなく、 少女は前をむいたまま、少年 千歳(チトセ)の名を呼んだ。
「もうすぐ……だね」
「あぁ」
少女 愛(イツミ)の声はいつもとなんら変わりない声音であって、 それに答える千歳の声もいつもと同じだった。
「あと、少しだな」
「うん」
ただ見えない2人の目だけが、唯一ゆれていて、 見えない視線をおたがいに振り切るように、千歳は下に愛は上に顔をむける。 いつのまにか足取りは止まっていた。
「もうこうして帰ることもおしまい、なんだね」
「あぁ…」
「今でも思い出すよ、こうして帰るようなった日のこと」
ほんの少しだけ声をたてて笑う、愛の声が千歳は好きだった。 空気が少しだけゆれるその笑い方がみょうに気に入っていた。
「……俺も覚えてる。いきなり手を掴まれたからなびっくりした」
ひくく、千歳も笑った。 俯いたまま、ずいぶん昔のことなのにまるで昨日のことのように 思い出して笑う。 愛はそれを愛おしそうに見た。
「目、丸くして驚いてたよね」
「…名前も顔も知らないやつに、『これから付き合って下さい!』 なんて言われたら、誰だって驚くだろ?」
「でも、付き合ってくれたよね。 断られるの覚悟だったから、私の方が驚いたよ」
「あぁ、自分から言っといて驚いてるんだから。 あの時は本当におかしな奴だと思ったさ」
懐かしい それは中途半端なおもいで
ただ優しいだけの ただ温かいだけの
おたがいを止めてしまう関係の始まりのおわり
手を握りあうことも 腕をくむこともしようとは思わなかった。
ただ、側にいるだけで心地よくて この時間だけがつづけばいいと思っていた。
「だけど、おしまいだね」
「あぁ、もうおしまいだ」
誰もいない公園で2人の視線はまじわらない。 まじえわることえを拒否するように、 愛は上を、千歳は下を、 ただ見つめつづけていた。 見えない何かをみようと、見つめていた。
「でも、そしたらすこし物悲しいね…」
ななめ前で、愛が天(そら)から降る春のおとずれに目を細める。
「そうだな…」
ななめ後ろで、千歳が足下に落ちてくる色をおって顔をあげる。
立ちつくしたまま両手の手を天(そら)にのばす愛のすがたが千歳の目の中に映る。
まるで薄紅色の花弁がすべてを焼きつくしているようだった。
愛も
千歳も
この思いも
この思いでも
浄化するように
すべて
すべて
焼きつくしていく。
燃えろ
燃えろ
すべてを焼きつくして。
それはまるで煉獄のようで すべてを焼きつくすように花弁は2人の上にふりそそぎつづけていた。
ただそれだけなのに胸がくるしかった。
-------------- 交わらない平行線の道を歩く男女の思い。 2人は立ち止まれないし、止まれない。 自分のためにも、相手のために。
ナナナ
|