lucky seventh
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2004年01月26日(月) 届かなかった手、いわなかった約束(無色シリーズ)

絶叫が聞こえた。

彼を抑える複数の手がもつれ、絡まり、

ひきずるように遠のいて、小さくなる。

それでもなお、声がなんどもわたしを呼び続けた。


「まだ、生きている。
 まだ、助かるんだ。。」

だから、お願い行かせてくれ。
ここで置いて行ったらもう、間に合わないんだ。


わたしにむかって伸ばされた手は空をつかんだ。

それはまるで届かない、届かなかった彼の絶望。。。





・届かなかった手、いわなかった約束・









いつも通りの帰り道、いつもと違うのは声が聞こえたこと。
それは大人の男の声で、でもどこか小さな男の子のような声だった。
そして、それはどこか求めるような声で、だから嬉しくて、
ついついわたしは応えてしまったのだ。




「バラライカ」
わたしが彼の名を呼ぶと、彼はいつもほんの少しくすぐったそうに微笑む。
呼ばれることがうれしいように、まだ慣れていないかのように、
名前を呼ばれることを知らなかった、そんな子供のように、大人のように。

それはいつまでも変わらないと思っていた。。




きらり、と空が光る。
それは召喚の前触れ、敵の一人が呼んだ強力な術。
光る刃が彼に降り注ごうとしていた。
けれど、呪文を紡いでいる彼はまだ気づいていない。

「バラライカ!!」

わたしは叫んだのと同時に、ほんの少し後方にいる彼に向かって走り出した。

(まだ、間に合う。)

彼が驚いて、わたしを見たのと同時に、私は彼を突き飛ばした。
無防備な背中からズブリと嫌な音がきこえた。
その次の瞬間、遠のきかけた意識を取り戻すかのように痛みが体を襲う。
すべての音がきえたように感じた、視界がほんの少し歪む、
ひどい鈍痛を頭に感じた。倒れる時に頭を思い切りぶつけたのだろう。


「がは…っ」


口からうめきがもれた、
それでもわたしは彼の無事を確認するために力を振り絞り、彼の方に目をむけた。
そこには、真っ白に無表情でわたしをみる彼がいた。
それはまるで初めて会ったときのような人形のような姿だった。


「ば、、らぁライ カ?」


わたしは彼の名を呼んだ。
魔法がとけたように、目が合うと、
とたんにそこには泣きそうなほどに顔を歪めた彼がいた。
手がカタカタとふるえていた、見えないのに彼の目がゆらゆらと目を
ゆらめかせていているのがわたしには分かった。


「いやぁ・・・  」


声にならない悲鳴が彼の口からもれた。


「やだぁ・・・・・   」


同じ派閥の構成員が息を飲んだのがわかった。
かつて、これほどまでに彼が混乱したところを誰も見たことがなかったのだ。
そして、誰もが恐怖した。
詠唱が途中だった不完全な術が暴走しようとしていた。
光が彼をつつみこむ、魔方陣が彼の足元に広がろうとしていた。


流れ落ちる涙に気づきもせずに、彼は私に向かって手を伸ばそうとした。


そして、その次の瞬間、彼は同じ派閥の構成員に押さえつけられた。



「はなせえぇぇー!!!」


血まみれの私の姿にくぎ付けのまま、彼は叫び、もがいた。
だが、誰も彼のいうことを聞こうとはしなかった。
少しずつ、彼と私の間が開いていく、彼は焦ったようにさらにもがく。


「いやだ、お願いだ!!やめてくれ!!!!」


目の前の現実に彼は泣き叫ぶ。


「彼女を助けさせてくれ!!」


おびえた子供のように、彼は私に向かい手を伸ばす。



「まだ、生きている!
 まだ、助かるんだ!!!!」

だから、お願い行かせてくれ。
ここで置いて行ったらもう、間に合わないんだ。




遠のいて行く、彼に向かってわたしは笑った。
「どうかお幸せに、マスター」
あなたの幸せを祈っています。


そして、振り向いて強気に笑った。

「煮るなり、焼くなりお好きにどうぞ。」

彼は複雑そうに私を見た。


ナナナ

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