lucky seventh
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2004年03月19日(金) どうしようもなく救いようのないボクに、空から天使がふってきた。

めずらしく、思いもがけず、ユウ・スウ・リンは考え込んでいた。
元来、ユウ・スウ・リンは物事を深く考えない性質(タチ)の人間だった。
ああだ、こうだ。と考えるよりも、
あれだ。これだ。と先に決めてしまうのが常だった。
だから、めったに考え込むことなんてなかった。
むしろ考え込む必要すらない人生を送ってきたつもりだった。
ユウ・スウ・リンには悩みなんて何一つない。
天涯孤独の身の上で、独身、友人なんてひとりもいない。
悩みの種になるような人間関係を構築せずに、孤独大好き!と
赤の他人に拳握ってのたまわれるくらいに実は社交的で、
でも、実際はやらないで一般人にさりげなく混ざってて、
クラスメイトにも、「ユウ・スウ・リン?あぁいいひとだよね。」
程度に人当たりもよく。そうとみせかけて実は、
パワフルで後ろ向きに全力疾走+思考のB型人間だ。
才能だって、日常生活に困らないほどいらないくらい無駄にある。
料理、洗濯、掃除に裁縫などの家事は普通に余裕で、
小学に通っていた頃にはすでに自分でなんでも家のことはやっていた。
自分さえいれば、ユウ・スウ・リンにはできないことなんて何一つなかった。
そんな、ユウ・スウ・リンは、この瞬間始めて考え込んでいた。

「人?」

ほんのいっとき前にした買い物で、手にはコンビニの袋を持っている。
中身はおでん、こんな寒空の中で、しかもあまり治安がおよろしくない
下位階層アウトローにに住んでいる身としては、
いつまでもいるわけにはいかない、賢明に立ち去りたい所なんだが、
ビルが密接して立ちならんでいるこんな狭い路地裏の入り口に、
ユウ・スウ・リンは突っ立っていた。
何かを見つめるように、憮然と立ちすくむ姿の
その目線の先には、空から降ってきたおぼしき格好で落ちている
薄汚れた衣服を身に纏っている小柄な人影が見えた。

好奇心は猫をも殺す。
君子危うきに近寄らず。

そんな言葉が脳裏をよぎったが、いい加減考え込むのも飽きてきたので
潔く近付いてみる。
するとそこには良く見ると背に羽をつけて、目を回している妖しい人間が落ちていた。
その回りには純白の羽毛が、この人は異様ですよ〜とばかりにさくらんしている。

「捨ておくか?…掃いておくか?」

ユウ・スウ・リンはそれからさらに数時間
ほおっておけばいい。
一番無難な考えをすっかり忘れて本気で考え込んでいた。









***********








「酷いですぅ」
数時後、常識的な解決策を考え付いて取り合えず警察に突き出そうと
目の前の人物の薄汚れた白いスモッグもどきを掴み、
引きずろうとしたところで、あろうことか目を覚ました不審者は
ユウ・スウ・リンの顔を見た瞬間に半泣きで言ってきた。

「こんなに幼気(いたいけ)な子供が傷付いて倒れているんですよ!?
普通は警察に突き出すんじゃなくて、病院でしょぉ!!」

なんだこいつは?

ユウ・スウ・リンは心の中で思った。
金色の短い巻き毛に、二つの青を秘めた極上の宝石のような対の目、
その容姿はまだ幼いが普通の人が見たならば、将来は有望だと
はっきり分かるようなあからさまに整った顔だちだった。

幼気か…幼いのは分かる、が、かわいらしいかは甚だ謎だ。
まぁ、ようは単なる乳臭いガキだな。ハン。

表情にはおくびもださず、鼻で笑った。
それがユウ・スウ・リンの不審者に対する素直な感想だった。
一見したらどう見てもココ、ユウ・スウ・リンの住むアウトローに相応しくない
美貌しているのにも関わらず、第一印象があまりにもよろしくなかったようだ。
ユウ・スウ・リンには、不審者から乳臭いガキにささやかにランクがあがっただけだった。








*************







「ちょっと!!……オイ、コラ!!!…聞けや!!!
ってあぁ!?スイマセン!!!!殴らないで下さいよぉ〜!!
暴力反対!ビバ☆非暴力!非服従!!!」

ほおっておけばよかったのか……。

不審者から乳臭いガキにランクアップしたソレを見て、
ユウ・スウ・リンは凶器のお玉を握りつつ、いまさら気が付いた。

「ギャッ!!?マジ反省してますから!!!
無言でお玉を振回さないで下さいよぉ〜!!」

厚かましいことこの上なく、モドキはついてきた。

「ってモドキって何ですか!!!!??何モドキですか??
え、、、ありえないしガンモドキですか?それが僕の名前なんですかぁ!?」

しかもチクワブは人の心を覗けるらしい。
プライバシーもあったもんじゃねぇな。ハン。

ユウ・スウ・リンはほんの少しやさぐれていた。
それは、お玉でチクワブの頭を容赦なくぶん殴っても晴れることはなく
まるで、芽生えはじめた恋のような、淡いピンク色の殺意だった。

「ってチクワブゥ???まじでありえねぇーし!!
って、あああごめんなさい!!!嘘です。羽毟んないでぇ!!!
わぁ、なんて素敵で立派な名前なんでしょうかぁ!!」

チクワブの見えかくれする、面の皮の下は真っ黒だった。

きっと腹の中も真っ黒なんだろうなぁ。
ウザイなぁ…。イトコン。

そんなユウ・スウ・リンの本心は、本来なら筒抜けであるが、
羽を毟られまいと必死のガキンチョには届くことはなかった。

「ヒィ−ー−ー!!!???」

そう、届くことはなかった……。


ナナナ

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