lucky seventh
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2004年05月05日(水) ふりほどいた手、いえなかった約束(無色シリーズ)

「どうして?」

酷く、裏切られたようなそんな傷ついた表情(カオ)で
君は、切れてしまった人形のように呆然と言った。










・ふりほどいた手、いえなかった約束・
















真っ赤な炎の中、ただソレは突っ立ていた。
ソレを喚んだ、あの愛おしい召喚主(ショウカンヌシ)は今はここにない。

これは罰なのだろうか?
あの愛しくも、ひどく愚かに優しかった召喚主を傷つけつてしまった。

ソレは酷く、無感動に崩れさる家々を見ていた。
黒い鎧の兵士に斬り付けられている、無力な村びとを見ていた。
自分で選んだとはいえ、傷つけてまで離れれしまったここにない
召喚主のことだけだけが、ソレの目に浮かぶ。



どれくらい、そこに居たのだろうか。
すでに生きている人の気配は失せ、ただ燃え盛る火の熱と血の匂いだけが
その場を支配していた。
ふいに、ソレの近くに人の気配がした。
それはどこか、ソレの大切な召喚主の気配に似ていて、
ソレはハッとその気配のする方に顔を向けた。

「誰?」

ふわりとソレの髪が揺れる、召喚主に綺麗だから伸ばしてと
せがまれた時からソレの自慢となった長く美しい髪。
能面のように無表情なソレは問いかける。
否、それは問いかけではなく確認だった。
しかし、それが分かる唯一の人は今ここにない。



「まだ、村びとがいきていたのか」

ソレの声を無視するように、その気配の主は言った。
そこに居たのは暗い色をその目に宿す、炎の鬣を持つ男だった。
その瞬間、微かにソレは顔を顰めた。
ほんの少しの不快さと、とまどい、懐かしい何かにあったという思い。
同じような色を宿した目だった。


まるで、その思いが罰だというように
ソレは泣きそうに笑った。

大切なものは1つだけしかいらない。

それなのにソレの手の中にはこぼれ落ちそうなほどの
星の光りがあった。


それは罪だ。

それはいつか大切な人を傷つける。


いや、もうすでにソレは傷つけてしまったことを知っていた。


「×××」


ここにはいない召喚主の名前を喚んだ。

「やっぱり君の手を離れたしまったのは間違いだったよ」

分かっていたはずなのに、それでもソレは愛おしいから、
何よりも愛していたからその手を放す決意をした。

男はソレの言葉に顔を顰めた。
この常規を逸した光景に気でもふれたのかと思ったのだろう。
しかし生憎、ソレは普通の生き物ではない。
ソレは闇だった。

ただ、光の影となってあるだけの闇。


闇は闇としてしか存在しえない。
それでも闇は闇として存在することになんら異議はなかった。
そう、召喚主に出会うまでは…

その思いをソレはエゴだと言った。
けれど、それをくだんの召喚主は自己犠牲だと泣いて笑った。





生きている人は、生きているが故に時に互いを傷つける。
そして、それは大切だからこそ傷つけ合うこともあるのだと、ソレは気付いていた。




それは闇
ソレは闇




死ぬほど自分を憎むことになると知っていても、
後で絶望するかもしれないと分かっていても、
ソレは召喚主が幸せならそれでよかった。
いつしか、それだけがソレの幸せとなっていた。







あなたが生きていてくれればそれでいい。
たとえ私が、死んだとしても。
生きることがあなたにとって どれほど地獄か知っていたのにね。

身を挺して 召喚主を逃がしましょう。


ナナナ

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