lucky seventh
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2004年06月06日(日) |
氷の棺 三つ子シリーズ |
たった1つの真実をみつけるために、
人は、どれほどものを犠牲にしていくんだろう?
私には分からない。
『氷の棺』
大人になればなるほど、忘れていくことが増えていく。 大人になればなるほど、それを受け入れていく。
だから、せめて覚えておこう。
君はそう微笑んだ。
「僕らは1つの魂が3つに割れた」
よく似た面差しのの3人の子供、その中で大人びた声の音が響く。
「だから、俺らは不完全?」
強い意志をひめた声の音は面白そうに、それでいてどこか楽しいそうに その声に応える。 大人びた声の持ち主は、その反応に苦笑で返した。
「アツル、楽しそうだね?」
「アツミは何でもかんでも難しく考え過ぎだ。」
同じ魂から3つに別れて生まれてきた子供たちは、同じ顔で、違う表情で笑う。
「アツコもそう思うだろ?」
アツルはそう言って、半身ではない片割れを見た。 同音なのに、違った意味をもつ3人の子供は3つでやっと1つだった。 だからこそ、何よりも強い絆と証を持っていた。
「アツル」
アツミの窘めるような声も、3人しかいないここでならアツルにとっては なんの抑止にもならない。
いつもそうだった。 アツルは強く、だからこそとても弱かった。 キラキラした瞳は切れそうなほど鋭く、まわりに溶け込むことはない色をはっきりと浮き上がらせていた。 だれもがその色から視線を逸らせることはできなかった。 強烈で圧倒的な存在感、それゆえに異質だった。
アツミは弱く、だからこそとても強かった。 ランランとした瞳はおぼろげで鈍く、溶け込むことでその魅力がいっそう色鮮やかに高まった。 それはまるで回りが鮮やかであればあるほど深みを帯びていく色彩。 魔性のように捕らえて放さない誘惑のような存在感、それゆえに異端だった。
そして、アツコはそのどちらでもなかった。 その存在感は確かに存在するのに、まるで見えないかのように、 空気のようにあって当たり前のようだった。 そして、まるで中和するかのように2人の存在を緩和していた。
「さぁ?」
アツコはいつも曖昧だった。 肯定も否定もしない、ただすべてを受け入れ、すべてを拒絶していた。 それゆえに、彼女をよく知らない人にとってはその存在は、 未知的で、時に計りしれない者に対しての様々な感情の色を与えた。
「さぁ?って…」
アツルはむくれたようにアツコを見た。 アツミもちょっとガックリきたようにアツコを見ていた。
「だって、それはしょせん栓のないことだもん。」
アツコはふふふ、と笑って2人を見た。
「1人じゃないって分かっていれば、それで私は十分だもの。」
「「ズルイ…」」
「それを言われたら…」
「僕らは何も言えないじゃないか。」
たった1つの真実をみつけるために、
人は、どれほどものを犠牲にしていくんだろう?
私には分からない。
願わくは真実を覆い隠すだけの言葉をください。
私は何も失いたくないから…
ナナナ
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