ゼロの視点
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友人Aから、夕方電話がかかってきた。
Aは38歳の看護婦で、シングルマザーとして18歳の娘と、10歳の息子を養うため、ハードに働いている。明るく、サバサバしていて、ユーモアに富み、そしてめったなことでは弱音なぞ吐かない彼女。現在は、ダイアナ妃が例の事故で運ばれた病院に勤務している。
彼女が18歳の時知り合った彼と結婚し、長女が生まれ、その後夫と離婚。そのあと、セネガル人と知り合い、結婚、そして長男が生まれた。しかし彼女の母親は、黒人との間に子供をモウケたことを激しくののしり、のちAと母親は絶縁。その数年後、夫の品行不良により離婚・・・・・。
一回目の離婚後、子供をひきとったAは稼いでいくために、昼間働きながら、看護学校に通い、見事試験に合格して看護婦になっている。昼夜を問わず働き続け、現在にいたる。
そんなAは、4年前に妻子ある男性との恋愛に陥った。いわゆる愛人になったのだ。2年間この関係は続いたそうだが、終わりの頃は彼女曰く“地獄”だったそうである。2度の離婚に際しては、それほどトラウマにならなかった彼女も、さすがにこの不倫の関係で、強烈に精神の深い傷を負ってしまったのだ。それでも、皮膚を剥がすように、意を決して別れることには成功した。
その後は、なんとか持ち直し、普通の生活に戻り、子供達とも仲良く暮らしていたはずだった。しかし、今から半年前、偶然、彼女にとって今では“鬼畜”でしかない元不倫相手と、偶然道ですれ違ってしまった。その瞬間から彼女に激しいフラッシュバックが起こるようになった。
Aには、なんでも乗り越えられてきたという自負がある。しかし、このフラッシュバックだけは、何をしても乗り越えられない・・・・・、それが彼女をますます落ち込ませる。
半年前、元不倫相手とすれ違った直後に、彼女がこれらのいきさつを話してくれた時、私は彼女にこうたずねた、
「たまには大声で、人目をはばかることなく泣くこともいいことだよ」と。
すると、彼女は
「わかっている・・・。でも泣けないの・・・」との返事だった。
彼と別れると以前から、ずうっと泣いたことがなかったそうだ。
このイキサツから、数ヵ月後、彼女から電話。いつものように明るい声のAだったが、私と話しているうちにだんだんと感情が高ぶってきて、電話口で泣き出した。こんな自分の姿を見せちゃって申し訳ないと何度も謝る彼女に、そんなことを思う前に、存分に泣いていっこうに構わないと伝える私。
これを機に、彼女の凍りついた元彼への感情が溶け出してきたのか、時々泣くことができるようになってきたとのこと。とはいえ、今度は自分の感情をまざまざと知ることになってしまったので、違った意味で苦しい日々となっているらしい。
そんな状況で、本日Aが私に電話してきた。いとも簡単に弱音を吐き、愚痴をいい、大げさに悲劇のヒロインになって自己陶酔に陥る人種は大嫌いだが、彼女のようなタイプは別。本当に、彼女には幸せになってもらいたい。そして早く自分で自分に課しているタブーを取っ払ってもらいたい。
そのための援助を求められれば、私は決して拒みはしないだろう。
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