さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2002年12月10日(火) |
にゃん氏物語 夕顔16 |
光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔16
非常に道行きが はかどらない気がした 十七夜立待月が出て 加茂川の河原を通ると 前駆者の松明の淡い灯りに鳥辺野の方を見た 不気味な景色も 源氏には恐怖心が麻痺していた ただ悲しみに 心乱された感じで目的地に着いた 凄く気味が悪い そこに板屋の家が あって 横に御堂が続いている 仏前の燈明の影が仄かに戸に透けて 見えた 部屋の中には一人の女の泣き声がして その外に僧侶数人が 話しながら声を荒げない念仏を唱えている 近くの東山の寺々の初夜の 勤行も終わった頃で静かだった清水寺の方角だけ灯がたくさんあって 多くの参詣人がいる気配である 主人の尼の息子の僧が尊い声で経を 読むのが聞えてきた時に涙がとめどなく流れてきた 中に入ると灯りを 背けて 遺体との間の屏風の手前に右近は横になっていた
どんなに侘しいだろうと 源氏は同情して見た 遺体はまだ気味悪さを感じさせなかった 美しい顔で生きていた時の 可憐さは 少しも変わっていない 『私にもう一度 声だけでも聞かせてください どんな前世の 縁なのか 僅かな間の関係でも 私は貴方に夢中になった それなのに貴方は私をこの世に捨てて 悲しい目に逢わせる』 もう泣き声も 惜しまず はばからない源氏だった 僧たちも 誰か知らないが 死者と別れたくない愛着を持つ様子の 源氏を見て 皆涙をこぼした
源氏は右近に『貴方は二条の院に来なければならない』と言ったが 「長い間 小さい時から片時も離れないでお世話になった ご主人との急な別れが来て 私は生きて帰る所がありません 奥様が亡くなったという事を どう他の人に話しができるでしょう 奥様を亡くした事もまた皆にどう言われるかも 悲しいことです」 こう言って右近は泣き止まない 「私も奥様の煙と一緒にあの世に行きたいです」
『もっともな事だが 人の世はこのようなものだ 別れに悲しくない という事はない どんなことがあっても 寿命が来ないと死ぬことはない 気を取りなおして 私を信頼して欲しい』と源氏は言うが また心細く 『しかしそういう私も悲しみでどうなってしまうかわからない』と言う 「もう明け方に近い頃と思います 早く帰らなければ」惟光が促す
さくら猫にゃん
今日のはどう?
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