さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2002年12月13日(金) にゃん氏物語 夕顔19

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔19

「隠そうとは思っていません ただ自分の口から言わなかったことを
亡くなってから 喋るのは申し訳無い気がしたものですから…
両親はずっと前に亡くなっています 殿様は三位中将でとても
可愛がられていたのですが 出世が思うようにいかないのを嘆かれて
そのうえ寿命にも恵まれていなく 若くして亡くされました

その後 ちょっとしたきっかけで頭中将がまだ少将の頃 通ってくる
ようになったのです 三年間位は愛情があり関係が続いたのですが
去年の秋頃 頭中将の奥様の父の右大臣家から脅すように
言ってきたのです 気の弱い方ですから ただ恐ろしがってしまって
西の右京のほうに 乳母が住んでいたので その家に隠れていました

その家も かなりひどくて困り 郊外へ移ろうと思いましたが
今年は方角が悪く 方角よけに あの五条の小さい家にいたのです
それで 貴方様がおいでになるようになり あの家ですから 嘆いて
いました 普通の人と違って内気で 物思いを人に見られるだけでも
恥ずかしいと思われ 苦しみも悲しみも心に閉まわれるようでした」

右近の話を聞き 源氏は自分の想像が当っている事に満足し
また恥ずかしがり しとやかな人が ますます 恋しくなった
『幼子が一人行方知れずだと中将は憂鬱だが 幼子はいますか』
「さようです 一昨年の春に生まれたお嬢様でとても可愛らしい」
『その子はどこにいる 私が引き取ったとは分からない様にして
私に引き取らせてくれ 形見も何も無くては寂しさだけ思うから
それができればいいと思う』 源氏はこう言って また

『頭中将にもいずれ話をするが 夕顔をあんな所で死なせてしまった
私は 当分恨みを言われるのが つらいなあ 子供は私の従兄の
中将の子であるし 私の恋人の子であるから 私の養女として育てて
かまわないのだから 西の京の乳母にも 別の理由を言って
お嬢さんを 私の所に連れてきて欲しい』と言った

「そうなったなら どんなに素晴らしいことでしょう あの西の京で
育ちになるのはあまりに気の毒です 私どもは若いものばかりなので
世話が行き届かないということで あちらの方に預けていたのです」
と右近は言った

静かな夕方の空の色が身に染みる九月だった 庭の植えこみの草など
がうら枯れ もう虫の声もしない そしてもう段々と紅葉が色づいて
絵のような景色を右近は眺めながら 思いもかけない源氏の家の
女房になっていることを感じた 五条の夕顔の花の咲きかかった家を
思い出すだけでも恥ずかしい 竹薮の中で家鳩という鳥が調子はずれ
に鳴く それを聞いて源氏は あの某院で この鳥が鳴いた時に見た
夕顔の怖がった顔が 今も可憐に思い出されてならないのであった


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