さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
目次へ|←遡る|時の流れ→
2002年12月14日(土) |
にゃん氏物語 夕顔19 |
光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔19
『年は幾つだったのですか?普通の若い人よりもずっと若く見えた 短命の人はそういうものなのか』 「確か十九才になったと思います 私は奥様のもう一人いた乳母の 忘れ形見で 三位様が可愛がってくれ 一緒に育ててくれたのです それを思うと 奥様が亡くなって よく平気で生きていると恥ずかしい あの弱々しい方を唯一頼りになる主人として 私は仕えていました」
『弱々しい女が一番好きだ 聡明で 人の感情に動かされない女は 嫌だ どうにかすれば人の誘惑にもかかりそうな人であり そのくせ 慎ましく 恋人になった人に人生の全てを任せるような人が好きだ おとなしいそんな人を自分の理想通り 成長していければいい』 源氏が言うと 「それは理想通りで現実に遠い お隠れは残念で」 と右近は言いながら泣く 空は曇り冷たい風で 寂しく見えた源氏は
『見し人の煙を雲とながむれば 夕べの空もむつまじきかな』 恋親しい人が煙となり雲になったと見れば 夕方の空も親しみに思う と独りつぶやいたが 返歌は言い出されない 右近はこんな時に二人 がそろっていればいいのにと胸が詰まる気がした
源氏は うるさかった五条の砧の音を思い出すまで長い夜を数え 『八月九月正長夜 千声万声無止時』(正に長き夜)と歌った
今も伊予介の家の子君は時々源氏の所へ行ったが 以前のように源氏 から手紙を託されなかった 空蝉は自分の冷たさに懲りて終わったのだ と思い心苦しくて 源氏が病気と聞いた時は嘆いた それに夫の任国に 伴って行く日が近づいて来て心細く 自分を忘れてしまったかと試しに
最近の様子を聞いて心配していますが どうお知らせすればいいですか 『問はぬをもなどかと問はで程ふるにいかばかりかは思ひ乱るる』 問わないのを何故かと尋ねてくれないで月日が経ちどんなに悩むことか 苦しかるらん君よりもわれぞ益田のいける甲斐なき の歌が思われます
こんな手紙を書いた 源氏は思いがけない空蝉からの手紙で珍しく 嬉しく思う 空蝉を思う愛情も 決してさめてはいなかった
生き甲斐が無いとは どちらのセリフでしょう 『うつせみの世はうきものと知りにしをまた言の葉にかかる命よ』 (この世は悲しく辛いと知ってましたが また貴方の優しい慰めの 言葉を頼りに生きて行く私の命です) 儚いことです
病後の震えのみえる手で乱れ書きした手紙の文は美しかった 蝉の抜け殻が忘れずに歌われているのを 彼女は気の毒と思うも嬉しい こんな手紙では好意を見せながら これ以上の深い想いになろうという 気は空蝉にはなかった 理解ある優しい女という想い出だけは源氏の 心の中に留めておきたいと思っているのでした
さくら猫にゃん
今日のはどう?
|