さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
目次へ|←遡る|時の流れ→
2002年12月19日(木) |
にゃん氏物語 若紫03 |
光にゃん氏訳 源氏物語 若紫03
山の春 日はとても長くて退屈だったから 夕暮れ 山が霞に覆われた時 今日眺めた小柴垣の所へ源氏は行ってみた 従者は寺に帰し 惟光と 覗くと 垣根のすぐ前の西向の座敷に仏を置いてお勤めしている尼がいた 簾を少し上げて 仏前に花を供えている 室の中央の柱近くに座って脇息 (ひじかけ)の上に経典をおいて 体がだるそうに読む 尼はただの尼 とは思えない 四十くらいでとても色白で上品であり 痩せているが頬の 辺りはふっくらして 目元は美しく 短く髪が切り揃えた裾は かえって 長い髪よりも艶である感じだ
綺麗な中年の女房が二人いて その他に座敷を出たり入ったりして遊ぶ 女の子が何人かいた その中に十歳くらいに見える白の上に 薄い黄色 の柔らかい着物を重ねて駆けてきた子は さっきから見てきた子供達とは 一緒にできない優れた素質を備えていた 将来 どんなに美しくなるかと 思われ 肩で垂れた髪の裾が扇を広げたようにゆらゆらとしていた 顔は 泣いた後らしく 手でこすって赤くなっていた 尼君の横に来て立った 「どうしたの 童女達と喧嘩したの」と言い見上げた尼君と 顔は少し 似ているので この人の子だろうと源氏は思う
「雀の子を犬君?が逃がしちゃったの 伏せ籠に閉じ込めていたのに」 と言って とても残念そうだ そばにいた中年の女房は 「また いつもの そそっかしやさんが こんなことをして お嬢様に 叱られるのですね 困った人だね 雀はどちらに行きました 飼い馴れて 可愛かったのに 山の鳥に見つかっては大変です」と言い立って行く 女は髪がゆらゆらととして 後姿も感じの良い女だ 少納言の乳母と他の 人が言っていたから この美しい子供の世話役なのだろう
「あなたはいつまでも子供らしくて困った人ね 私の命が 今日明日も わからないと思われるのを何とも思わないで すずめのほうが心配なの 雀を籠に入れるなど仏様が喜ばないといつも言ってるのに こちらへ」 と尼君が言うとちょこんと座った 顔つきはとてもかわいく眉がほんのり している 子供らしく自然に髪がかきあげられた額つき 髪の生え際など 優れた美がひそんで見える 大人の姿を想像して すごい美人を源氏は 目に描いた 何故この子に魅せられるのか それは恋しい藤壺の宮に よく似ていたからだ そう気付く時も藤壺へ恋い慕う涙が頬を熱く伝わる
尼君は女の子の髪を撫でながら 「梳くのを嫌がるけどよい髪です あなたがこんなに子供っぽいので心配している あなたぐらいの年なら こんなふうでない子もいるのに 亡くなったお姫さんは十二でお父様と 別れた時 もう悲しみも何もかもよく分かる人になっていました 私が 死んでしまった後 あなたはどうなるのだろう」と言って 大変泣くので 覗く源氏も悲しくなった 子供心にもさすがにじっとしばらく尼君の顔を 見つめてからうつむいた その時こぼれかかる髪がつやつや美しく見えた
『生ひ立たんありかも知らぬ若草をおくらす露ぞ消えんそらなき』 どう育つか分からない若草を残しては死ぬに死ねない思いです 一人の中年女房が深く心に感じて泣きながら言った 『初草の生ひ行く末も知らぬまにいかでか露の消えんとすらん』 萌え出したばかりの若草が生育していくその先も知らないうちにどうして 露は先に消えようとするのでしょう 何故先立つ事を考えるのでしょう
さくら猫にゃん
今日のはどう?
|