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家族。 - 2005年03月09日(水) 彼はいつも 茜色の髪を風に靡かせていた。 傾いた西陽は 彼の髪を照らし 金色に変えてた。 目を細め 風の方向を見つめ 鼻をすくっと持ち上げて 遠くから聞こえる風音を聞いているのか それとも 風に同化しようとしているのか いつも夕方になると 庭のテラスで そんな格好で風にあたってた。 もう彼とは10年になろうとしている。 兄弟達と一緒に一つのケージに入れられて戯れてた。 最初から 少し人見知りをする子ではあったけれど 一番最初に私の手の中に飛び込んできた子であったから もうペットはいらないよと 言ってた両親を無理矢理説得して 私は彼を連れて帰った。 小さかった彼は みるみるうちに成長した。 ポメの平均体重である3キロをすぐに上回り 2年もかからずに7キロになった。 片手で抱きかかえられるほどの 小さいポメが欲しかったのだけど それでも彼はふさふさとした 艶のある鬣のような毛をもっていたから それはそれで 格好も良かったし とてもハンサムだった。 私は あるとき 心身症にかかっていた。 独りで 家の近くでさえ 外出する事ができなくなった。 独りででかけると 何処かで倒れて息絶える気がするのだ。 とても天気の良い初夏の日々 私は段々痩せ細って 体力がなくなって行く身体を ベッドに横たえたまま 風が樹々の葉を揺らす音や 眩しい陽の光が傾いてゆくのを 一日中感じながら過ごしていた。 そんなときに私を外に連れ出してくれたのは 彼だった。 彼と一緒に近くの雑木林にお散歩にでかけた。 携帯電話と水筒をバックにいれて。 毎日毎日 彼と 外に出かける練習をした。 彼は勝手な方向に どんどんと歩き続けたけれど 私はそれで 少しずつ 私の移動できる範囲を広げる事ができた。 そうするうちに私は 外出に対する自信をとりもどし ようやく電車にも乗れるようになった。 彼の異変を感じはじめたのは 5年ほど前からだった。 どうやら人間で言う脂肪肝であるらしい事を先生に言われた。 食事の制限や 今以上の量の運動を言われたけれど 皆 彼が余りにも可愛いものだから 皆が皆 食事の時に少しずつ 人の食べ物を与え続けた。 一番のダメージは 彼の左足だった。 小型犬にはよくありがちではあるのだが 左足のじん帯の炸裂。 通常なら手術すれば治る それほど難しい病気ではないのだけど 手術するには彼は 肝機能を悪くし過ぎていたし 心臓も肥大し過ぎていた。 一度手術をするために 先生のところに赴いたのだけど その直前に手術は中止された。 「麻酔をかけてしまったら もう目を覚まさないだろう」といわれたから。 それから彼は左足をひきずってる。 ただでさえ 重い身体を3本足で支えるのは かなりの負担らしく 前足や後ろの右足にも影響をあたえている。 お散歩は 人間用の乳母車にのせて 連れていってはいるのだけれど それは全く運動になるわけもなく 運動量も著しく減少している。 最近になって どうやらとても酷いらしいから 大学病院に連れていきたいとの相談があり 一度きちんと彼の状態を把握しておこうと 昨日実家に帰ってみると 彼はやっぱりいつものように 庭のテラスで西陽に髪を靡かせながら 風の音を聞いていた。 私が後ろから呼び掛けると 首だけをこちらに向け振り返ると そこには 艶の失ったぼさぼさの毛皮を纏った彼が 力無く 佇んでた。 もうひとりでは 家の敷き居に上がれないからと 抱きかかえて部屋にあげると 彼は私の前でお座りをしながら 微かに身体を震わせ 目の前にぱたりと倒れてしまった。 舌を暗青色にしていた。チアノーゼだった。 デュンくん、デュンくんと呼び掛けると 必死に体勢を立て直そうと 起き上がろうとするけれど 起き上がる度にまた 本が倒れるように ぱたりと横に倒れてしまった。 すぐに病院に運んだけれど 先生からはあまり思わしく無い言葉ばかりが並び 治るとは言い切れないといわれている。 数種類の薬を服用し なんとか今の状況を乗り切るべく 皆で彼を見守っている。 どうしてこんなことになったんだろうねって 姉はいうけれど それは彼の所為では全然なくて 家族みんなの責任で デュンくんには 謝っても謝りきれないことで。 家族の無責任な愛情と 無知が彼をあんな身体にしてしまったことを やっぱりきっちりと わかっていないといけないんだと思った。 早く少しでも 安定してくれればいいのにと 願っている。 ...
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