短いのはお好き?
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2002年04月20日(土) |
Who are you? |
乗り換えの霞ヶ関のホームで、彼女が待っているはずだった。
私は吊革につかまりながら、深沢七郎を読んでいた。
不意に誰かが背中に被いかぶさってくる。
振り返ってみると、髪の長い若い女だ。
女は、ごめんなさいといった。
わたしは軽く会釈して、ふたたび『笛吹川』に没頭する。
ふと、なぜか気になって顔をあげ、周りを見廻すと、男は私ひとりだけで
座っている人も立っている人も全ては女性ばかりだった。
こんなこともあるものなのかと不思議に思ったけれど、さらに異常なことに
気がついた。
駅に着かないのだ。
3分間おきほどで各駅に停車してゆくはずなのに、メトロは減速することもなく
走りつづける。
霞ヶ関はとうに過ぎてしまったのかと心配していると、電車が停まった。
霞ヶ関だった。
急いで降りて、エスカレーターを駆け上がる。
丸の内線のホームで彼女の後姿を発見し、そっと近付いてゆく。
彼女は新聞を広げ読み耽っている。
「リサ、ごめん。待った?」
彼女は振り返りざま、私の左頬を平手で打った。
「だから、ごめんて……」
「いま、なんて言った?」
「え?」
「リサじゃないでしょ、リサじゃ」
「え、あ、ごめん。誰だっけ?」
「ふざけんな。あたしもう帰る」
「ごめんごめん。冗談だって。ほら、ちょうど電車来たしさ、乗ろ」
電車に乗り込んで空いていた席にふたりして座ると、彼女は、うってかわって
笑顔でおしゃべりをはじめる。
「まだ席あいてるかな? 2階になっちゃたらどうしよう」
私は、だいじょうぶだよ、とか曖昧に答えながら、映画かな? と憶測する。 はっきりいって、この女性にまったく見覚えはない。
けれど、彼女が人まちがえしてるわけもないので、とにかくここは調子を合わ
せておくのが賢明と判断した。 もしかしたら、不意に名前を思い出すかもしれないし。
「ね、きいてんの? こないだいったパスタ屋さん、おいしかったよね?」 「ああ。わるくなかったね。また行こうか」
と、そこでメールの着信音。
彼女は、しゃべりつづけてる。
相づちをうちながら、急いでメールの文面を読む。
『いつまで待たせる気? もう帰るから。バイバイ』
リサからだった……。
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