華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年07月15日(月) 浪速の聖母の安息日。 〜大樹〜 |
<前号より続く> 「うちの子な、大樹っていうんやけど、4歳って言うたやろ」 「ああ、この前ね」 「まだ話出来へんねん」 「・・・・・・うん」 「様子もおかしいんで、お医者に連れてって診てもろたら・・・・」 「うん」 「この子自閉や言わはんねん」 「自閉・・・自閉症か」 【自閉症】 先天性の脳の機能障害。 脳内の情報処理のプロセスに障害があるが、その発生原因は不明。 統計上、1000人に1〜2人発症する。そのうち5人に4人が男児に発症。 治療法は無い。 過去には精神病などの様々な間違った解釈があったが、 精神障害、心因性の情緒障害、精神疾患とは構造上も全く異なる。 □具体的な特徴□ ●言葉の発達の遅れがみえる (言葉が話せない、理解できない、使い方が間違っている、など) ●他人との協調が苦手である (相手の気持ちを理解することが苦手で、他者と一緒に遊べない) ●自分から親、家族、または他者への働きかけが苦手 (上二つの特徴と関連があると思われる) ・感覚の感受性に一貫性が無い (音や声・痛み・寒暖などの外的刺激に無関心、または過敏に反応) ・様々なレベルの精神遅滞を伴う ・知的機能の不均衡な発達 (計算、音楽、記憶、描写など特定の突出した能力を持つ事がある) ・自分の興味・活動が限られ、他者からの矯正を強く嫌う (同じ日課、同じ順番の行動などに、執拗にこだわる) ・多種多様の「多動」を伴う (チック症的で落ち着きが無い程度〜他者への攻撃、自傷行為まで) ・・・・・・など[黒丸は特に顕著な症状] ○程度によるが、周囲の理解と協力で他の健常者と同じように就職など 社会生活をおくる事も可能である。 ○同じ動作を好む特徴、また突出した知的機能を利用して活動し、 社会参加する者も多い。 【文献・・・自閉症Q&Aホームページより抜粋・要約 文責・・・平良】 「・・・・自閉って知ってるの?」 「ああ、昔な・・・」 俺は大学時代に知的障害児施設でボランティアを経験した事がある。 そこで自閉症の子どもとも触れ合ったことがあった。 確かに独特の特徴がある子供たちで、こちらの意思を伝えるのに苦労した。 ある児童は色画用紙の切り貼り工作を好み、 三色旗などの国旗を資料と見比べて、次々と作成していた。 ある生徒は山の絵を描くのが好きで、 季節に応じて微妙な色合いを変え、黙々と描き上げていった。 重い症状の子は、自分の感情さえも分からない。 自分の泣き声に驚いて、さらに泣く。 最悪の自己連鎖だ。 自閉症児がちょっとした事でも火がついたように泣き喚くのは、 そういうことが原因なのだという。 俺も何も知らない状態で彼らに出会っていれば、 とても耐えられえる状況ではなかった。 地獄だ。 「じゃ、話してもわかってもらえるな・・・・」 チエミの息子・大樹は医者の診察によると、重度の自閉を発症しているそうだ。 「その自閉症は、母体のストレスも原因やって言われてるんや」※ ※実際の発症原因は現在も不明で、チエミの独自の判断だと思われる 恋愛経験の乏しいチエミは、見合い結婚で現在の旦那の実家へ嫁いだ。 妊娠した辺りから旦那の浮気が発覚し、家庭不和に陥る。 姑(旦那の母親)は、子どもである旦那可愛さから、 家庭不和の原因を嫁の怠慢と決め付け、身重のチエミを責めつづけた。 身近に味方のいないチエミは、相当な不安とストレスを抱え込んでしまう。 ここで、大樹の脳に重篤なダメージを与えたのだとチエミは悔いていた。 「私がもっと強ければ、大樹も一緒に苦しまんでよかったんや・・・・・・」 そして、精神的にも孤独な中で出産を迎える。 しばらくは子ども中心の穏やかな日々を過ごしていた。 だが成長していく課程で、何時まで経っても大樹は言葉を話さない。 徐々に多動癖、周囲の刺激に無頓着など、他の子と違う特徴が見えてきた。 そして医者の診察の結果、上記の診断が下されたのだ。 大樹の自閉症が発覚して以降、旦那は一切チエミに対して構わなくなった。 「キチガイを生むような女など、気持ち悪くて触れられん」と吐き捨てる。 姑も子どもの責任を全てチエミに負わせた。 「こんな子どもしか産めん嫁など、孫と一緒に精神病院へ行け」とののしる。 居たたまれなくなったチエミは、大樹を連れて家を飛び出し、 近所の安アパートで別居生活を始めた。 昼は公的施設に大樹を預け、スーパーのレジ打ちのパートで生計を立てる。 それだけでは生活も成り立たないので、夜にテレコミのバイトを始めた。 真夜中でも突然力いっぱい泣き喚く大樹に、 同じアパートの住民だって決して温かくはない。 度重なる苦情もある。 露骨な嫌がらせだってある。 『そんなガキは精神病院へ放り込め』などと心無い言葉だって、何度も浴びた。 宗教関係者も訪れ、何かと屁理屈をつけては高額の商品を売りつけようとする。 断れば、呪いだ因縁だと薄気味の悪い言葉で執拗に脅迫してきたそうだ。 その度に耐え忍び、苦情があれば何度も何度も頭を下げ、ただひたすら謝った。 「大樹に罪は無い。私が我慢すれば済む事や・・・」 確かに自閉症の子どもを授かったのは不幸だっただろう。 「大樹は私が産んだ子や。それに私が母親なんやから。 それも私のせいで自閉になったんやで。面倒見るんは当たり前やんか」 その子どもの障害を正しく理解し、そして共に闘う事もせずに、 チエミと大樹をまるで欠陥品のように、人のクズのように扱い、冷たくあたる旦那と姑。 「旦那がよう言うてはったわ。俺の人生はお前らに狂わされた、てな。 ・・・お義母さんもな、よくもうちの家系からキチガイ出してくれたなって・・・」 弱みに付け込み、さらに踏みにじることを平気でやる家族やアパートの連中。 ・・・そいつらなんざ、人間じゃない。 俺はどうしようもない憤りを思える。 しかし他人の家の話。 赤の他人である俺が、どうしてやる事も出来ない。 「大変だったね・・・」 俺はもう、その言葉しか出ない。 チエミはいきなり開き直って、自暴自棄に振舞う。 「な、聞かん方がよかったやろ?もう電話する気も失せたやろ?」 「いや、そんな事無いよ」 「ええんやで・・・こんな女どうでもええやんな、もう電話切ろうや?」 「いい加減にしろっ!」 最初の電話の時。 何度も電話を切ろうとする俺を引き留め、テレフォンSexまで付き合った。 必死に喰らいついてきた。 パートだけでは成り立たない生活のために、夜に大樹の床のそばで出来る 仕事として始めたのが、このテレコミのバイトだった。 昼夜構わず働きつづけ、休む事もままならない。 それでも一切の弱音は人前では吐かなかった。 すべては息子を守るため。 自分の産んだ子だからと、逃げずに育て上げる覚悟の母。 それも、ただでさえ苦労のかかる自閉症児だ。 疲れ果てた時でも支え、抱きしめてくれる人はいない。 冷たい世間の風で心も冷え、何度も挫け、大樹と共に心中する事も考えた。 しかし自分が腹を痛めて産んだ息子に手を掛けることなど、出来るはずも無い。 例え自分独りで生命を絶ったとしても・・・残される大樹はどうなるだろう。 肉親の、そして人間の心を持たない鬼畜な夫と姑に、今更何を求められよう。 そんな彼女の、束の間の癒しが『バイブオナニー』とは・・・・ あまりに切ないではないか。 初めてエクスタシーを感じたのも、オモチャだったという。 俺はチエミの抱えるあまりに重い現実に、掛ける言葉さえも失う。 電話の向こうで今まで抑えつけていた感情を吐き出し、 声を上げて泣き崩れてしまったチエミ。 俺もただ黙って、泣き止むのを待つしかない。 「チエミ、大丈夫か?ごめんな、辛い話させてしまって」 「・・・・・・私も・・・取り乱してしもうて・・・・」 「今度、俺が聞ける範囲でチエミの願い事をひとつ叶えてあげるよ」 「・・・・え?ホンマ?・・・・何でもいいの?」 「ああ。でもアレ買って、コレ買って・・・は無し。金無いもん」 「ええよ、今度までに考えればええか?」 「いいよ。今週末くらいにまたこっちへ電話して」 「・・・良かった、もう嫌われてもええって思うて話したんよ・・・(泣く)」 「大丈夫、そんな話くらいで嫌いにはならんよ。泣くな」 「・・・・・・分った、じゃ、今度な」 その週末。 約束通り、チエミの方から直接電話が掛かってきた。 「もしもし、私」 「もしもし。どう、落ち着いた?」 「ああ、久しぶりに泣いたからな・・・・・・スッキリしたわ」 「そうか・・・で、考えたか?願い事」 「うん、でな、一つ報告する事あるねん」 「何?どんな事?」 「あのな、離婚、成立したんや」 「旦那と?本当・・・・でもおめでとう、じゃないよな」 成るべくしてなった結果。 これで、チエミはバツイチである。 これで旦那も姑もせいせいした事だろう。 「慰謝料も養育費もいらんからって、大樹の親権だけ取った」 「そうだな、大変だろうけど・・・・あなたが育てた方がいいよ」 「でな、願い事やけど・・・・」 「結婚?」 「ちゃうよ、アホやなぁ」 「ハハハ、で、何?」 「うん、でも、無理ならせんでもいいからな」 「うん」 「あのな・・・・・・平良と1回、逢いたいねん。もう不倫ちゃうよ」 「なんだ、そんな事かぁ。いいよ」 「・・・・・・でも名古屋やろ?遠いやんか」 「大丈夫、大阪でしょ?すぐ行けるよ」 「ホンマ?良かったぁ!嬉しいわぁ」 「でも、大樹君は大丈夫なのかい?」 「それやねんなぁ・・・明日施設に聞いてみんと、 何時くらいまで預かってくれるか分らんけど」 「それだけきっちりとしたら、一緒に遊ぼう」 「うん!」 「今度、その都合が決まったら教えて。それから日にちを決めよう」 週明けにチエミから電話があり、 彼女のパートの休みが2週間後の水曜日だという。 施設も予約を入れ、夕方6時半まで預かってもらえることになった。 <以下次号> |
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