華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2003年08月21日(木) 傷だらけの生娘。 〜紫の髪〜 |
<前号より続く> りりかが中学生の頃あたりから、母は何かと娘を殴るようになった。 別に酔って手を挙げる、というレベルではなかった。 普段から何か気に入らない事が起こると、娘に暴力で当った。 それまでも彼女が悪い事をして叩かれる事はあった。 しかし母は我が娘に対して必要以上に暴力を振るうようになったのだ。 髪を掴まれて引きづられ、平手や拳、時にはビンで我が子を殴りつける。 一度は目を上から殴られ、しばらく視界が定まらない事もあったという。 理不尽な暴力にりりかも抵抗するが、母はそれ以上に襲い掛かる。 身内ゆえに、手加減無しに行われる折檻。 支えの無い孤独で過酷な生活に疲れた母は、鬼へと変わっていった。 「私ね、今19なんだけど・・・一人暮らしがしたいの」 「お母さんから逃げるため?」 「うん・・・でも貯まらないなぁ」 「そうかぁ・・・こういう仕事をしているのを、お母さんは知ってるの?」 「知ってるよ。嫌がるけど・・・お金を入れてるからね」 りりかは今でも母に月6万円を渡している。 自分の娘が水商売の世界で働くのを歓迎する親などいないだろう。 精神的なバランスを崩した母は満足に働きにもいけず、今も家で過ごしている。 りりかの稼ぎを頼って生活をしなければならない。 そんな母の葛藤と苛立ちがさらなる暴力となって娘に向けられる。 昨日も母に左眼の上から殴られ、その周囲には痣が浮かんでいた。 その痣と心の傷を覆い隠すための『厚化粧』だったのだ。 「でもね、助けてくれる人がいるの」 「へぇ、誰?」 「岸和田のおばあちゃん!よく遊びに行くんだぁ」 顔を挙げ、一瞬俺に向けて笑顔を浮かべる。 それまでの作り笑顔とは明らかに違い、頬まで緩む。 りりかが母から暴力を受けた時、助けてくれたのは父方の祖母だった。 離婚する前。 普段から折り合いの悪かった母親と祖母は、事あるごとに対立していたという。 りりかが母に叱られた時。 無関心だった父親の影で、真っ先に慰めてくれた祖母。 両親が離婚した後も、祖母はそれまで通り彼女を可愛がった。 自分の孫だ、という強い自覚があったのだ。 母親がりりかに私刑まがいの暴力を振るった時、 自分の身を呈して防いでくれた事もあったそうだ。 離婚後も祖父母はりりかの家の近くに住んでいた。 その祖母も、祖父が体調を崩してから二人で故郷の大阪の岸和田に戻ったそうだ。 母親は厄介払いとばかりに喜んだ。 しかし母親に内緒で祖母の連絡先を聞いていたりりかは、 年に数回はそっと岸和田に顔を出していた。 祖父は2年前、亡くなったという。 それから祖母は一人暮らしをしている。 りりかは祖母に本当に感謝している様だった。 「うちのおばあちゃんね、気持ちは若いんだよ〜」 今年76になるりりかの祖母は白髪を紫に染め上げ、 趣味の旅行を楽しむ悠々自適の生活を送っている。 「おばあちゃん、岸和田の女だからね・・・気も強いよぉ」 時には母親と引っ叩き合いにもなった程、激しい気性の祖母。 台所から刃物を取り出された時にも、動じずに素手で立ち向かったと言う。 母親の理不尽な暴力から孫を守るために身体さえ張った。 『気持ちの強さ』は腕力で訴えるものではない事をりりかは理解している。 「そりゃまあ、すごい家庭だなぁ・・・」 「おばあちゃんが危なかった時、お母さんを突き飛ばしちゃったしね」 突き倒された祖母に危険が及んだ時、りりかは母親に体当たりして救出したという。 そんな話を遠い目で懐かしそうに話す。 「私ね、だから一人暮らしするアパートを岸和田で探してる」 「本当・・・残るお母さんはどうするの?」 「・・・大っ嫌いなんだよ、うちのクソババァ(母親)。 でもね、一人じゃ生活していけない人だから、お金だけは入れなきゃね」 ただ嫌いなだけの人ならば、縁を切ればよい。 りりかはどんなにひどい仕打ちを受けたとは言え、 決して母親との縁を切ろうとはしていなかった。 女同士にしか分からない、関係とでも言うのだろうか。 どれだけ憎んでいる母親でも、母親は母親。 本当に健気な娘だ。 「岸和田かぁ・・・だんじり祭だっけ?」 「私、まだ見たことないんだけど、おじいちゃんがそんな話をしてたなぁ」 だんじりで市内を疾走する、迫力満点の話が大好きだったと言う。 ふとした会話から、祖父の話になり、さらに意外な方向へと向かった。 「おじいちゃんね、2年前に死んじゃったの・・・ それからのおばあちゃんったらね・・・」 白髪を紫に染め上げ、度々旅行に出かけるようになったの、という。 伴侶を失い、残りの人生を一人で過ごさなければならない・・・ その不安や侘しさを癒すために、目立つおしゃれをし、わざと人ごみに出て行く。 そんな祖母の姿から、優しい孫はあらゆる心のうちを読んでいた。 「私が岸和田から帰る時に、とにかく心配してくれるの。 何か遭ったら、すぐに岸和田まで飛んで来なさいって。 でもそれが本当は、おばあちゃん自身が不安なんだろうな・・・っていつも感じるの」 <以下次号> ※次号が完結編です。 |
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