華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2003年08月22日(金) 傷だらけの生娘。 〜涙の声〜 |
<前号より続く> 深く語り出すりりかに、異変が生じていた。 ブランド物のポーチからハンカチを取り出して、交互に目頭を押さえ出す。 ここはキャバクラ。 賑やかな店内で、明らかに違う雰囲気を俺とりりかを包む。 「私、分かるんだもん・・・おばあちゃん、小さくなってくの。 会いに行くたびにね、背中曲がってきて、小さくなっていくの・・・」 そう言い終わると、りりかは堰を切ったように嗚咽し出した。 「分かるの。おばあちゃんも寂しいんだって・・・ 私の事、いっぱい守ってくれたんだもん・・・ 私が・・・私が今度はおばあちゃんを守って、最後まで面倒見てあげるの・・・ おばあちゃん、ゴメンね・・・寂しいのに何もしてあげられなくてって・・・ ずっと、自分で悔やんでるの・・・ おばあちゃんに逢いたいの・・・」 りりかの中で、今まで誰にも声にして言えなかった心底の思いを口にした。 母親にも心を許せぬ孤独な少女の、きっと最小限の叫び。 異様な光景に、野畑も吉井も、他の客やキャバクラ嬢も一斉にこちらを見る。 すぐさまボーイがりりかに寄り添い、背中を擦りながらなだめる。 席を外させようと促すが、りりかはすぐにボーイを制し、俺の方へと向き直った。 「ごめんなさい・・・ちょっと取り乱しちゃった・・・」 「いいよ、全然構わないよ」 「私ね、こんな話をね、誰にも聞いてもらった事無いの・・・ それもお金払ってくれるお客さんに聞いてもらっちゃって・・・ すごく悔しい・・・でも嬉しくて・・・」 その嬉しさから思わず涙をこぼした、とまだ潤んだ瞳で笑って見せた。 俺がそんなりりかに、どこかぎこちなさを感じていた。 俺が男だからだろうか。 りりかの話の中で、父親がどこにも出てこないのだ。 「お父さん、どうだったの?」 「・・・知らないっ」 短く強い言い切りで、父親の事を知らないと言い切った。 りりかは気付いていたのだろう。 自分の家庭が壊れた理由を。 母親が、自分へ暴力を振るわなければいられらなくなった理由を。 その全ては父親の存在が最大の元凶だという事を。 そんな母を許しても、父の存在を拒絶しているりりか。 深く語りたがらないのは、その存在すら認めたくない証し。 父の罪は、思いのほか深く重いようだ。 「私ね、本当に男が苦手なんだ・・・ 本当に男の人信用しないし、仲良くなった事なんて無かった・・・ だから自分でも分かってるの。 この仕事、向いてないって事もね・・・何やってても辛いもん。 でも、この仕事がなきゃお家にお金入れられないから・・・」 りりかはそう言って、また泣きそうになりつつも微笑んだ。 痛々しいスマイルだった。 下衆な酔漢の愚痴や痴話の聞き流し役として、日々耐え続けている。 彼女は、自分のできる事を頑張っている。 間もなくボーイがりりかを呼びに来た。 「お客さん、本当にごめんなさいね・・・」 「いいよ、いい話聞けたから」 「あ、携帯でメールできる?アドレス教えて欲しいな」 「何、営業メール?(笑)」 「そういう訳じゃないけど・・・いい?」 「ああ、いいよ」 俺は彼女からもう一枚名刺を受け取り、その裏にアドレスを書いて渡した。 「平良さんって言うんだ。ありがとう・・・」 そう言ってりりかはソファを離れ、 ボーイに連れられ、急ぎ足で照明の届かない店の奥へと消えていった。 「たいちゃん、ごめ〜んっ」 そう言って、申し訳無さそうな素振りでマナが入れ替わりで帰ってきた。 「さっきの娘、泣いてなかった?」 「あ、ああ。処女の子を泣かせちゃった(笑)」 「ああ〜っ、泣かせたの〜?ひどい人っ」 「結婚してって口説いたら、泣いちゃったよ(笑)」 「嘘付き(笑)」 マナはそう言って、俺に新しい水割りを差し出した。 「さっきの娘、良い娘だったなー」 「りりかちゃんの事、気に入ったんだ・・・ねぇマナの事は?」 「あっちこっちにお呼びが掛ってるし、俺一人で独占できないから嫌だ(笑)」 「うそ〜っ、平日の夜に来てよ・・・ゆっくりとお話しできるから」 そんな話をしている間に、三度マナは席を立ち、他の客に付いた。 入れ替わりにまた新しい娘が俺の脇に座った。 しばらくして、店の間接照明が一気に明るくなる。 閉店時間だ。 俺達は席を立ち、野畑が支払いを済ませる間にエントランスへ向かう。 そこには、その時間に店にいる全ての嬢が並んで出迎えていた。 「たいちゃ〜ん、本当に今度また来て」 マナが俺の元に来て、そう言って名刺を握らせた。 そこにはマナの携帯メールアドレスの走り書き。 「ありがとう・・・またゆっくり話がしたいね」 「だから、今度来る日をメールして・・・」 「分かったよ、もう行かないってメールする(笑)」 「ダメー!絶対来るの!」 マナに手を振り、俺は店を後にした。 そこには、りりかの姿は無かった。 一足早く店を出た野畑と吉井に合流したが、二人ともどこか不機嫌だった。 「平良、お前、店の娘泣かせてどういうつもりだ?」 俺がいじめて泣かせたのだと思っている野畑は絡み口調で突っかかる。 あの店の先ほどの水割りで相当酔っている様子だ。 そこに早速携帯が鳴る。 メールが届いたのだ。 『平良さん、今日は本当にありがとう。 途中で泣いちゃって、恥ずかしいです…(^^;ヾ いままで男の人が嫌いだったので、余計に変な気持ちです。 でもぜひまたお店に来てくださいね りりか 』 次の日の朝、りりかのメールに返事を打った。 『メールありがとう。 りりかちゃん、辛い状況でも本当によく頑張っているね。 本当におばあちゃん思いの優しい娘だとおもったよ。 また店に行くので、お話ししようね taira ♂ 』 それからしばらくした、午後。 見慣れないアドレスのメールが届いた。 『平良さん、覚えてる?りりかです。 あのお店、辞めました。 なので携帯も替えて心機一転です(^^) 来週から岸和田で一人暮らし始めます。 おばあちゃんの家から、徒歩10分のアパートです。 お仕事大変だろうけど、がんばってね で、マナちゃん怒ってるよ。メール来ないって 笑 だから私はいないけど、お店にもたまに行ってあげてね 』 りりかから本名に戻った彼女からのメールだった。 彼女にとって、一つの目標が達成できたのだ。 返事を打った。 『平良です。おめでとう。 これで一つ目標が叶ったね。俺も嬉しいよ。 マナちゃんには悪いけど、君がいないならお店に行ってもねぇ。 おばあちゃん、それにお母さんも大切にね。 そして早く信頼できる彼氏を作ってねー(笑)taira ♂ 』 メールを送信する。 送信を完了しました、と小さな画面に表示された。 そして操作を切り替える。 メモリダイヤルの中に登録しておいた、りりかのアドレスを消した。 もうりりかと、いや彼女と「りりか」として会うことも無かろう。 本名に戻った彼女に、店の客だった俺が求めるものも無い。 |
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