華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2004年03月02日(火)

午前1時の情事。 〜昼と夜〜
<前号より続く>



 「嫌ってもいいよ。だから今から私の話を聞いて欲しいの」
「何を改まって・・・いいよ、話してごらん」

 「私ね、28って言ったでしょ?嘘なの」
「そんな事なんとも思わないよ。俺、年上の女性好きだもん」

 「そんな年上なんていうレベルじゃないの」
「・・・30歳半ばくらい?」

 「もっと上。大台に乗ってる」
「・・・40歳?」

 「うん。ビックリしたでしょ?・・・騙すつもりは、無かったんだ・・・」


会社から一回り年齢をサバ読みさせられたいた。

そう言ったきり、瑶子は受話器の向こうで黙している。


人間、一番年齢を取らないのは『声』だという。
長年放映している人気アニメの声優など、揃って還暦を過ぎているではないか。
それまで俺も瑶子の年齢に、全く疑問を感じてなかった。


瑶子が不安を募らせていたのは、それだけではなかった。

過去の経歴も、今の生活の現状も、覚悟を決めた彼女は時間をかけて、
洗いざらい話しきった。


 「・・・もう私を嫌いになったでしょ?」
「なぜ?」

 「こんなオバサン、平良にはもう相手にしてもらえないから・・・」
「そんなこと無いよ、俺は全然大丈夫だって!」


もう俺もこんな遊びにも慣れている。

俺にとって若作りなど、もう嘘という枠にも入らない。
それも自らの意思や悪意で吐いた嘘ではないのだから。


ただ、瑶子の言いたい事はそれだけではなかった。
 

すでに年上の婚約者がいる事。
その彼との結婚が年末に決まっている事。

さすがに俺も驚きを隠せなかった。


「・・・じゃ、聞いてもいい?」

俺は瑶子に尋ねた。


「婚約者がいるのに、なぜ他の男と遊ぼうって思うの?」
 「・・・不安だから、なのかな」

「不安なの?」


たった一言で表したが、瑶子は悩みつつも言葉を選んで、
さらにたっぷりと時間を掛けて様々な思いを口にした。


彼女を悩ませ、不安にさせる大きな問題があった。

その一つは、彼女自身が二度結婚に失敗している事だった。


一度目の離婚は、言わば若気の至り。
恋愛の延長線で籍を入れたのだが、夫婦とも遊びたい盛りの年齢だった。
彼から受けた理不尽な束縛に耐えられなかった瑶子は、早々に離婚する。


二度目は尽くしてきた旦那の裏切り。
順風満帆だった結婚生活と、突然の浮気発覚。
妻として、女として自信を失った瑶子は、まだ幼い愛娘と共に
温もりを失った愛の巣を出た。



もう一つは、15歳ほど年上の婚約者の彼が瑶子を抱かない事だった。
彼は若い頃からの不摂生がたたり、早くから男性機能が弱くなっている。

併せて女体への興味関心も薄く、ごくたまに気が向いたときにしか瑶子に
触れてこない。

対して瑶子は、今が「女」として最も不安が募る年齢になった。
自らの肌の状態も、体形も自信が持てなくなりつつある。

このまま衰えを待つだけなのか・・・
もう女として誰からも相手にされなくなるのか・・・

それも相手は夫婦になる男。
濃厚なSexでなくてもいいから、ただその腕に抱かれていたい。
居場所が欲しいのだ。


 「もうこんな私になんて、気が向くことも無さそうだもんな・・・」

瑶子はそう声にならない程の呟きで寂しく嘲笑していたのを思い出す。


そんな心境を吐露した瑶子の言葉を、俺は笑い飛ばしてやった。


「そんなの、この世界じゃ嘘にもなってないよ」
 「なぜ?男の人って女の年齢や経歴って重要じゃない?」


嫌われてもいいから本当の自分を分かってもらいたい・・・
そんな心境で告白してきた瑶子だったが、俺の笑い声に泣き出した。


真剣だった彼女を、怒らせたかも・・・
さすがの俺も一瞬焦った。


「・・・怒った?ゴメンよ」
 「・・・笑われちゃったね、でも良かった・・・」


怒って相手が電話を叩き切られるんじゃないか・・・
瑶子が抱いていた最悪の予想は、呆気なく外れたのだ。
それが彼女の安堵の涙を誘い出したらしい。


「もう泣かないで・・・女の涙は嫌いなんだ(笑)」
 「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


謝れば謝るほど、止め処なく流れる幾筋もの温もり。
漏れ出す嗚咽。
決して自分の男には見せない涙を流す瑶子に、
俺は女心の一つを学んだ気がした。


瑶子が年齢に対して不安を抱いていた理由がもうひとつあった。
若かりし頃の自分の活躍ぶりと現状とのギャップ。


昼は保険会社の渉外として、売り上げトップの営業員だった瑶子。

その月の売り上げを示す棒グラフ。
朝から会社を空ける男性でも、彼女を越えるものは現れなかったという。

細やかな気配り。朗らかな人柄。卓越した営業センス。

「彼女から商品を買いたい」と何人もの顧客に恵まれていた。


また休日の夜は錦のクラブでもトップクラスのホステスだったという。
高い酒と美しい衣装に身を包んだ彼女の会話が、男の虚栄心を擽る。

細やかな気配り。朗らかな人柄。男の下心を巧みに受け流す会話術。

様々な立場の男が、彼女を連れ出そうと誘いを掛けてきた。
そんな男の気持ちを傷付けないように、また焦らすように店に通わせる。


気力も体力も充実していた、若かりし頃。


 「その頃はもうバツイチだったのに・・・だからかな、みんな優しかったな」


そんな多忙さも落ち着いた30歳に、二度目の結婚。
その旦那との間に、間もなく愛娘も生まれた。

今度は家庭人として家族を内側から支えた。
昼夜に渡った過去の栄光を一切切り捨てたかのように、生活を変えた。
安いスーパーで服や食材を探し出し、毎朝毎夕愛娘を送り迎えし、
保育園などでもPTA役員を勤めた。


「クラブでの私を知っているお客さんは、きっと私だと分からなっただろうな」



<以下次号>








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